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丘の上で結わう花  作者: pan
第2章 来たる文化祭、そして
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第55話 修羅場って、このこと?③

 思ってもいなかった(かける)の言葉に彩夏(さやか)は驚いていた。それに、駈自身も咄嗟に出ていたようで、付け加えるように早口で続ける。


「あ、いや。嫌ならいいんだけどね」


「嫌なんて思ってないわ」


「俺らも別に嫌なんて思ってないけどな」


 美鈴たちは賛同するように駈の言葉を否定していった。

 彼女たちもまた、プールから始まり今までの駈の行動から信頼を置いている。文化祭実行委員としてもそうだが、駈をひとりの友人として見ているのだ。


 それに駈は気づいていないのだが、自身の誘いに乗ってくれて嬉しくなっていた。耐え切れなくて口元がにやけているのだが、誰も突っ込もうとはしない。


「それなら、文化祭の打ち上げの時にでも買いに行くか!」


「彩夏はクラスが違うでしょう。打ち上げとは別日の方がいいと思うのだけれど」


 そうだった、と彩夏は舌を出してふざけて見せた。

 気づけば結花と美鈴の殺伐とした空気感もなくなっており、ただただ和やかな雰囲気へと変わっていた。


 これも彩夏の特性と言うべきか。さっきみたいにふざけるときは思いっきりふざける、怒るときは精一杯怒ってみせる。メリハリがしっかりしているという面で駈は尊敬していた。


 自然とまわりからは笑いが生まれているし、まるで彩夏を中心に世界が回っている様だ。


「彩夏さんと駈さんたちってクラス違うんですか? てっきり同じだと思ってました」


 そんな中、結花(ゆいか)だけが口をぽかんと開けていた。

 これだけ駈と仲がいいと見えているのなら同じクラスだと思われても仕方がない。


「そうだね。ちなみに彩夏以外は全員同じクラスだよ」


「そうなんですね。彩夏さんだけ別なんですね……」


「ね、暗くなるもの分かるぞ。なんで、うちだけ別なんだろうな……」


 急にどんよりした空気になってしまい、駈は声こそ出していないが思わず苦笑い。

 先生がクラスの割り振りをする基準として成績が挙げられるが、そういうことなら納得がいく。


 しかし、なんとも不憫だ。昨年、同じクラスだった速人とも離れて、同じ美術部の人とも散り散りになって。


「ま、クラスが違くてもこうやって遊べるから気にしてないけどねー。部活でだって会えるしな!」


「いって! 無理やり肩組んでくるなよ……」


 (ゆたか)は顔を歪めたが、怒っているわけではない。少し痛かったのだろうが、すぐに呆れるように息を漏らす。


 駈は初めて見る絡み方に少々驚いている。今までウザ絡みをされたことはあったが、物理的な干渉はなかった。どちらかと言えば、隆と彩夏の性格は似ているところがあるから仕掛けることが出来るのだろう。


 美鈴(みすず)も、たまに心配そうな表情を浮かべるも見飽きた光景なのか、どこか呆れている。


「はあ……。彩夏、ここはファミレスよ」


「ごめんごめん、ちょっと楽しくなっちゃった」


「楽しくなったって……。そんなんで物理攻撃仕掛けてくるな」


「でも、隆はちょっと嬉しそうだったよ」


「は!? 俺はそういうので喜ぶタイプじゃねぇぞ!?」


 隆は顔を真っ赤にしながら声を荒らげた。

 普段の部活動でもこのように馴れ合っているのだろうか。駈は少し羨ましくなり、静かに微笑む。


「みなさん、本当に仲がいいんですね」


 結花が駈にだけ聞こえる声で伝えてきた。結花も同じことを思っていたのか、口に手を当てて静かに微笑んでいる。

 駈はその姿を見てから、また正面を向き直した。


 学校で見ている姿と何も変わらない。裏表がないというか、普段から取り繕って生活していないのだろう。お互いに信頼し合っている関係、まさに仲間と呼ぶに相応しい光景が目の前に広がっていた。


「ああ、そうだな。めちゃくちゃ仲良さそうだな」


「ふふ、駈さんも同じこと思っていたんですね」


「おーい、何イチャイチャしてんだー?」


「は? してないけど」


 二人の会話に横入りしてきた彩夏はニヤついていた。駈は思わず冷淡な態度で答えてしまったが、誤解されたくなかったため堂々としている。


 反対に結花は彩夏のノリに乗っかるつもりなのか、わざとらしく体をゆさゆさと揺らしている。照れているつもりなのか、少し顔を赤い。


「えー、本当かなー? だって、校門で会いに来たとか言ってなかった?」


「え、聞こえてたの……?」


「そうよ、駈くんが結花さんとその話をしていた時に私たちは近くまで来ていたわ」


 急いだつもりだったが、まさか聞こえていたとは。

 隠しているつもりはなかったが、会っていることが明るみになると少々残念に思う。駈は密かな楽しみに水を差されたような感じがした。


「なあなあ、その話詳しく聞かせろよー」


「何で言わなきゃならないんだよ」


「じゃあ、結花ちゃんに聞こうかな」


「いえ、私からも言えません。恥ずかしいですし」


 結花はさらに顔を赤らめてから俯きざまに言った。なにやらもじもじしているし、このままではさらなる誤解を招きそうだ。


「おまたせしましたー」


 なんとベストタイミング。彩夏が何やら言おうとしていた瞬間に頼んでいたメニューがやってきた。

 駈は胸を撫で下ろすように息をつくと、力が抜けたように背もたれに腰掛ける。


 まさか、自分がいじられる側になるとは。今までもあったが、それは速人と彩夏だけがいるときの話。今回のように、他にも多くの人がいる、それも最近仲良くなった中でやられる側になるのは初めてだ。


「よーし。それじゃ、食べながら駈の話を聞こうか!」


「黙って食え! 気になっても聞くな!」


 駈は恥ずかしいのか顔を真っ赤にしてプレートに手をつける。いじられている自覚があるのか、声と怒りは抑えめでまわりも笑っている。


 いつかはこうなると思っていたが、やはり面倒だ。

 でも、たまにはいいかもな。本当に、たまにでいい。

 息抜きは時に必要だ。

お読みいただき、ありがとうございます。

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