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丘の上で結わう花  作者: pan
第2章 来たる文化祭、そして
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第54話 修羅場って、このこと?②

 これでようやく二人とも冷静さを取り戻したのか、互いに顔を俯かせたまま黙り込んだ。


「ご、ごめんなさい……」


 しばらくしてから結花(ゆいか)は両手で頭を押さえながら低姿勢で駈に謝ってきた。しかし、美鈴(みすず)は子供のように唇を尖らせて何か言いたげな様子。


 駈に止められたことに腹を立てているのか、はたまた結花との言い争いで興奮しているのか。どちらにしろ、肩を震わせているので怒っているのは確かだ。


「私も謝るわ。ごめんなさい」


 まだ何か言うものなら次は容赦しない、と駈は思っていたのだが、案外すんなりと非を認めてきた。結花とは違って、そっぽを向いているし歯切れは悪いが、今回は許すとしよう。


 いつの間にか駈たちのまわりには数名の野次馬が集まっている。傍から見れば、二人の女の子が一人の男の子を取り合いしているように見えるのだから仕方ないのだが。


 ふう、と駈は切り替えるように軽く息をついた。


「とりあえず、場所を移そう」


 堂々と腕を組みながら結花と美鈴を見ながらそう言っているが、それは見栄を張っているだけだ。

 駈は注目されることに慣れておらず、変に緊張していた。本当は早くどこかに逃げ出したくなるほどしんどい。


 だから、今はこの場から退()けることだけを考え、二人に提案を持ちかけた。


「……まあ、そうね。私たちはこの後寄るところがあるけれど」


「奇遇ですね。私も寄るところがあるので、今日はこの辺で」


「そうだな、今日はこの辺で……って、え?」


 一件落着に思えたが、駈は忘れていた。


「……何で小春さんが駈くんの腕に抱き着いているのかしら?」


「美鈴さんこそ、どうして駈さんの腕を掴んでいるんですか?」


 駈は腕組みを解いたのだが、また両腕が拘束される。

 またしても二人は目線を合わせては対抗するように言葉を並べているし。結花は相変わらずニコニコしているが目が笑っていない。そして、美鈴も眉をひそめながら口角を引きつらせている。


 まるで、狐と狼の喧嘩を見ている様だ。かつて狼は狐の最大の天敵と言われていた様だが、ここでは狐が優勢らしい。


「もうマジで、二人とも離れなよ」


 少し荒々しい口調で彩夏(さやか)が割り込むと、二人を駈から引きはがす。そのまま二人を引っ張っては座らせると、何やら怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。


「あー、あれはやばいな」


「え、どういうこと?」


 足音を立てないように近づいてきた(ゆたか)は怯えていた。(はるか)も隆と駈の後ろに回り込むように入ってきては、彩夏の方をちらちらと覗いている。


 状況を掴めていないが、時折聞こえてくる声から説教のようなものをしていることは勘づく。


「彩夏は怒ったら相手が納得するまでとことん追い詰めるタイプでな。頭が良いから言うことは全部筋が通っているから言い訳もままならない。あと、結構長い」


「それは、怖いな……」


「滅多に怒らないから、なおさらね……」


 駈はその言葉を聞いて、恐る恐る彩夏に視線を移す。


 怒りのオーラが出ているかのように赤毛の長髪が逆立っていた。まるで猫が威嚇しているような。

 そんなものが目の前にいるものだから、あの冷静沈着な美鈴と天真爛漫な結花が肩をすぼめて校門の脇に座っている。


 気づけば野次馬も増えてきて、彩夏たちを囲うようになっていた。

 駈たちも止めようとはせず、ただ見ているだけ。

 そして、その説教は生活指導の先生が来るまで続いた。




「ふう、やっと座れたー」


 彩夏はフカフカの座席に座ると、すぐにテーブルに腕を置いて伸びた。


 あの後は先生に注意を受けてなんとか学校から離れることができた。彩夏の熱も冷めて大人しくなったのでそこは安心していた。


 だが、まだ結花と美鈴はバチバチ。今度はどこに行くかで揉めた。

 ファストフード店かファミレスか。多数決だと偶数だから同数になってしまう可能性があるからと、決定権を駈に押しつけられてしまう。


 幸い、どちらも学校近くの大通りにあったため考える時間は十分にあった。もちろん、その間もどっちにするかで結花と美鈴に迫られていたが。


 考え抜いた結果、ファミレスを選択することに。結花を贔屓しているわけではなく、人数を考慮してのことだ。


 もちろん、美鈴は反対してきたが、道理にかなった説明をすると「わかったわよ」と渋々了承した。


 そして、ファミレスに着いてからというもの。なぜか駈は結花と美鈴に挟まれる形で座らされている。横から突き刺さってくる視線が痛くて仕方ない。


 前に座っている三人はメニュー表を眺めては、何を頼むか決めているようだ。同じテーブルのはずなのに、寒暖差が激しすぎる。


「じゃあ、以上で!」


「かしこまりました。では、ごゆっくり」


 店員が軽く会釈してからテーブルを離れると、彩夏が前のめりになって結花を見つめ始めた。結花は少し怯えているのか、顎を引いて嫌そうな顔をしている。


「な、なんですか」


「いやー、カバンにうちと駈に似たようなキーホルダー付いているなと」


 正確にはカバンを見るために接近していたらしい。

 校門にいたことに気を取られていて、その時は気づかなかった。確認してみると、確かに駈があげた狐のキーホルダーが付いている。


 スマホに付けるには大きいと言っていたが、まさかカバンに付けるとは。これじゃまるでお揃いのような気がしてならない。


「あ、これですか。駈さんに貰ったんですよ。なので、駈さんたちとお揃いです!」


 ああ、言いきっちゃったよ。


 駈は頭を片手で支えるように項垂(うなだ)れた。別に黙っていなくてもいい話なのだが、今は厄介。というのも、ここには彩夏と美鈴がいる。


 彩夏にはからかわれるだろうし、美鈴はもう想像もしたくない。今も駈は結花の前に置かれたキーホルダーを見ているのだが、背後から殺気のようなものを感じる。


「へー、駈に……。何であげたのー?」


「北海道のお土産渡すときについでにって感じ。早苗とも遊んでくれてるし」


「そうなんだ。今度、美鈴たちの分も買いに行く?」


 背後からの殺気が薄まっていく。察するに、美鈴も友人とのお揃いが欲しいのだろう。

 変な話、美術部である彩夏が先んじてやっているものだから、他の部員が持っていないのは気の毒だ。


「じゃあ、文化祭終わったら買いに行くか。みんなも一緒に」


 この言葉に同情も他意もない。ただ、準備期間を通じて親睦を深めた仲間の証というか、記憶より形として残したいと思ったのだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

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