第53話 修羅場って、このこと?①
さすがに耳を疑った。が、さっき送られてきたメッセージの内容を思い返せば納得できる。
しかし、まだ返信していなかったのに向かってきていたということになるし、なによりどんな意図でここまで来たのか分からない。
確かに、最近結花と会っていないから気持ちは分からなくもないが、突然来られても困る。
「え、マジ?」
「大マジ。多分、駈のこと待ってる」
だろうなと思いつつも、とにかく今は急いで確認したい。
駈は持っていた上履きをさっさと靴箱に投げ入れ、外靴に履き替えては颯爽と扉を駆け抜けていった。
駈の姿をなんだなんだと下校する人たちが見てくるが、そんなことはどうでもいい。
「あ、駈さん!」
「本当にいたし……はあはあ……」
昇降口から校門までは少し遠い。だが、駈は休むことなく全力疾走。おかげ全身から汗が吹き出し、息切れもしている。
その様子を見た結花は心配そうに顔を覗かせてきた。
「……大丈夫ですか?」
「まあ、これくらいは……」
駈は膝に置いていた両手を解き、頬をつたっていた汗を拭った。目の前には白いブラウスの上にベージュのベストを重ね着している結花の姿。その襟元には特徴的な朱色の紐リボンが蝶々結びで止められている。
駈にとっては久しぶりに見る制服姿だ。しかし、校門を通り過ぎる人たちは「白女の子?」「何でこんなところに?」「彼氏待ち?」などと現を抜かしている。
白女と言うのは結花が通っている学校の略称で、正式名称は雪白女子高等学校。周辺では間を取って「白女」と略されることが多い。
女子校というだけで話題性は十分なのだが、なんでも制服がかわいいらしい。早苗もそれが理由で選んだと聞いている。
駈は毛ほども興味がなかったため早苗に自慢されても流していたのだが、結花の制服姿はどこか別格。
「それで、なんでここにいるの?」
「なんでって……連絡しましたよ?」
「え、嘘!?」
駈は慌ててメッセージを確認すると、確かに連絡は来ていた。それも怒涛の10連投。
『そうなんですね!』
『久しぶりにお話しませんか!』
『ファミレスとかどうですか?』
『今駈さんの学校に向かっているんですが、まだいますか?』
『おーい、駈さーん』
ここからはおろおろしている狐のスタンプが五回送られている。それもほんの二分前に。
帰る準備をしていたとはいえ、気づかなかったことに少し申し訳なさを感じた。というより何故気づけなかったのか……。
「本当だ……でも、話したいなら迎えに来なくても……」
「これは気分です! 学校からもそれほど遠くないので!」
「確かにそうだけどさ……」
「最近、あまり話せていなかったのでこれも一興ですよ!」
結花とは文化祭の準備で忙しかったためメッセージを送り合うことすらしなくなっていた。たまに早苗の様子を聞いたり、今週会えますかといった誘いの連絡ぐらい。
しかし、テンション感がどことなく早苗に似ている。まるで二人目の妹が出来たような感覚だ。これ以上、妹が増えても仕方がないのだが、嫌な気はしていない。
今も結花は目を輝かせて返事を待っている様だ。尻尾は出ていないが、容易に激しく揺らしている姿を想像できる。
「とにかく、ファミレスに向かうか……」
「あら、三橋くん。どこに行こうと言うのかしら?」
後ろから聞こえてきた声に思わず振り向いた。そこには何かに怯えている隆と悠、何かをなだめるように「まあまあ」と言っている彩夏の姿。
そして、腕を組みながら眉をぴくりと動かしている美鈴の姿……。
「久しぶりですね。小春さん、と言ったかしら? どうしてここに?」
美鈴は恐ろしい剣幕で駈、ではなく結花を見ていた。
対して結花は怖気づくどころか、変な対抗心が芽生えているのかいつも通りの無邪気な様子で答える。
「なんでって、それは駈さんに会いたかったからですよ!」
「ちょ! 結花!」
「……名前で呼び合っているのね。仲が良くてよろしいことね」
また、美鈴の眉がぴくりと動く。
駈は大声で「会いに来た」と言われたものだから恥ずかしさでどうにかなりそうだった。思わず名前で呼んでしまったが、気が動転していてはしょうがない。
それもあってか、駈に目線は集中しているし、変な誤解をされていないか心配になってしまう。
「と、とりあえず落ち着こう。ね、秋川さん?」
「……へー、駈さんに名前で呼ばれていないんですねー?」
「な……!」
駈もなだめようとしたが、逆効果だった。結花はどうしてか煽るようにジトっとした目で美鈴を見ている。
何が互いの火をつけてしまったのか、向かい合う二人の間には火花が散っているように見えた。
「私は名前で呼んでいるわよ! ね、か……駈くん!」
「は、はい!」
急に顔を向けてくるものだから反射で返事をしてしまった。そんな事実は初めて知ったが、もうどうにでもなれとしか思わない。
「でも、駈さんは秋川さんのこと名前で呼ばないんですもんね?」
ふふんと言った感じで得意気な顔をする結花。だから、何でそこまでして煽り合戦を行うんだ。
駈はこの状況に口を挟む勇気はなかったため、ただ見守ることしかできない。
「はあ……」
出来ることと言えば、言い合いをしているところを見て溜め息をつくくらい。
すると、また美鈴は駈のことを見てきた。
「何溜め息ついているのよ! ほら、私のこと名前で呼びなさい!」
「え、何で……」
「いいから!」
わけがわからない。しかし、ここで応じなければ美鈴が気の毒だと思ってしまった。だって、今にも泣きそうというか、怒りで震えているというか。唇が上を向いていて、思わず情が湧いてきてしまう。
「……み、美鈴?」
「ほら! これで対等よ!」
「確かにそうですが、美鈴さんは駈さんと二人きりで花――」
「……もう、いい加減にしろ、二人とも!」
駈はしびれを切らし、怒号と共に二人の頭を軽くはたいた。
いよいよラブコメっぽくなってきましたよ……!
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