第33話 これは看病、だよな①
「お兄、本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。そんな心配するほどじゃないから」
駈はこれから出掛けようとする早苗の心配そうな表情を見て、なだめるように言葉を返す。本当に大丈夫なのかと言わんばかりの眼差しを向けながら早苗は玄関の扉に手をかけた。
「何かあったら連絡してよー。んじゃ、行ってきます!」
「おう、いってら」
駈は玄関の扉が閉まるまでその場に留まる。もちろん早苗を見送るためであるのだが、訳はもう一つある。
(とりあえず今は寝転がってよ……)
駈は気だるさを感じる体を自室に運ぼうと足を動かす。その足取りは遅く、体を支えるのがやっとなのか一歩が短い。階段を上ろうと曲げる足はギリギリ一段上がれるほどにしか曲がらない。
やっとの思いで上がりきった駈の額にはうっすらと嫌な汗が出ている。そのまま自室の扉を開けたかと思うと、一直線にベッドへと寝転ぶ。
(まだ治らないのか……)
駈はプールの翌日から体調を崩していた。疲弊した身体に当てられた冷房のせいだろう。あの日から課題に手をつけても集中することが出来なかった。気になった駈は熱を測ってみると、微熱程度ではあるがいつもより体温が高くなっていた。
駈の体力は底をつきそうになっており、滅多に風邪をひかないからか長引いている。今日は、早苗はもちろん両親も仕事で不在。下手なことはせずにベッドの上で過ごそうとして、今に至る。
(あ、飲み物……)
駈は周囲を見渡し飲み物を探すが見当たらない。休めようとした体を起こし、何かあった時のためにスマホを手に取ると、リビングに向かった。
階段を降りようとしたところで、急にスマホが振動した。通知を確認すると結花からで、メッセージの内容を見ようとアプリを開く。
『駈さん、体調大丈夫ですか?』
何故体調のことを知っているのだろうと駈は驚愕の表情を浮かべる。しかし、変に心配されたくないと思ったのか誰から聞いたかなど気にも留めず返信した。
『大丈夫だけど』
『嘘ですね。片桐さんから全部聞いてますよ』
すぐに既読がつくと、メッセージが送られてきた。今日は速人たちと課題をやろうと約束した日だったため、事前に体調が悪いと送っていた。それをどういう訳か速人は結花に伝えていたらしい。
『ちゃんと寝てますか?』
『寝てるよ、そんな心配しなくても大丈夫』
返信しているとスマホが手から滑り落ちる。ずっと立っていたからなのか、いつの間にか体力が奪われていた。とりあえず今は座っておこうと思ったのか、その場に座り込む。
『本当ですか?』
足元にあるスマホを手に取り画面を見ると、メッセージと共に腕を組みながら眉をひそめる狐のスタンプが送られていた。今の状況では到底大丈夫とは言えないが、人に迷惑はかけたくない駈は嘘をつく。
『大丈夫だって』
すぐにまた同じスタンプが送られてくる。このまま貫きとしたとしてもイタチごっこになるだろうと踏んだ駈は濁しながらも本当のことを伝える。
『まあちょっとしんどいけど大丈夫』
メッセージを送っても既読はつくが返信が来ない。休憩がてら少し待ってみようと体を休める。
あれから数分待ったが、未だに返信は来ない。駈は水分を取ろうと微量ながら回復した体を起こす。
リビングに入った駈はすぐさまキッチンに向かい、冷蔵庫を開けた。ひんやりとした空気は、駈の体には寒く感じる。冷やされた茶を取り出し、ソファへ向かう。
(こんな時に何だ……?)
ソファの前にあるテーブルに茶を置いたところでインターホンから来客だと音が鳴らされた。宅急便だったら居留守しようと思った駈はモニター越しに確認する。
「は?」
駈は思わず声を出して驚いた。すぐに玄関に向かい扉を開ける。
「あ、駈さん……ってすごい汗ですね、全然大丈夫そうには見えませんけど」
扉の先から聞こえる声の主は結花だった。
何が起きているのか分からないといった表情を浮かべている駈はベッドの上にいた。微熱だが思ったよりも重症で、幻覚でも見ているのだろうか。そう思うほど、今の状況を理解できていない。
「キッチンお借りしておかゆ作ってきました」
「ありがと」
駈はお礼を言うと、倒していた体を起こそうとする。
「あ、起きなくて大丈夫です。私が食べさせますので」
「それぐらい大丈夫だから」
「大丈夫じゃないです」
結花は両手で起こそうとした体を止めてきた。どこか怒りを感じる表情を浮かべている結花を見ると、すんなり受け入れたのかベッドボードに腰かける。
「それでは」
食べてくださいと言わんばかりにスプーンに盛られたおかゆを駈の口元に運んでくる。駈は一瞬ためらったが、厚意に甘えて口に入れた。恥ずかしさからか体温が上がっている気がする。
「熱くないですか?」
「大丈夫だよ」
その後も駈は運ばれるスプーンに乗ったおかゆを口に入れる。バケツリレーのように坦々と済まされていき、いつの間にか平らげている。駈がそれに気づいたのは結花から市販薬と水を渡してきた時だった。
「これ薬です。ちゃんと飲んで寝ててください」
「お、おう」
妙な高揚感を抱いていた駈は恥ずかしくなり、受け取るとすぐに薬を飲んだ。
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