第31話 思ったよりも疲れている
今日から投稿再開です!
たわいもない話をしていると時間はあっという間だ。駈は途中途中会話に混ざりながら早苗たちの後ろを歩いていた。気づけばフレンズとは別れ、そして。
「それでは私はここで」
「こはるん、またねー!」
結花も家が近くなり、最後の曲がり角というところで軽く会釈する。元気が有り余っている早苗が勢いよく手を振る中、駈は挨拶代わりに小さく手を振っていた。
「よーしお兄、競争しよう!」
「いや、普通に歩いて帰ろうよ……」
「じゃあ私先に帰ってるねー!」
駈の言葉は届くはずもなく、早苗はそのまま走っていった。あまりに元気な早苗に肩を落としていると、スマホが振動した。
『駈さん、今日は楽しかったです! また遊びましょうね』
また速人たちか、と半ば呆れながら確認したメッセージは結花からだった。もう家に着いたのかと気になった駈は結花が進んだ道を振り向く。
結花はスマホを持ちながら駈がいる方向を見ていた。メッセージを送ったら駈が振り向くと期待していたのだろう。嬉しくなったのか結花は駈に向けて手を振る。
遠くて駈からは見えていないが、結花は確かに微笑んでいた。今は二人だけの空間になっているようで、特別なもののように感じる。駈は別れ際よりも大きく手を振り返し、結花を見送った。
いつまでもこの時間を続かせるわけにもいかないと思った駈は残念そうに、ゆっくりと手を下ろし、メッセージを送り返す。
『楽しんでもらえて何よりだよ、また遊ぼうか』
すぐさま結花の方に視線を戻す。駈を見ていた結花の姿は、気づけば小さくなっていた。それを確認した駈はどこか名残惜しさを感じたのか、寂しそうに帰路に足を運ばせた。
◇◇◇
どこか重たい足取りのまま駈は玄関の扉を開ける。
「ただいまー」
「あ、お兄遅いよー」
リビングから早苗の声が聞こえてきた。競争をしていたつもりだったのか、どこか呆れたような声をしている。
「早苗が早すぎるんだよ……はあ」
駈は大きく息をついた。早苗の陽気っぷりもそうだが、玄関に置きっぱなしになっている早苗の荷物を見て呆れていた。靴も乱雑に散らばっている。
駈は仕方なく靴を並べ、荷物も洗面所に持っていった。そこまで距離はないものの遊んだ疲労からか軽く息切れを起こしながらも、洗濯機にタオルやら水着を放る。
(プールの件も合わせて説教だな)
駈は疲労がぶり返してきて重くなった体をリビングまで運びながら説教の言葉を考えていた。
「あ、ご飯できたよー」
「早いな、って今日は素麺か」
「暑かったし、疲れたから簡単なのにしといた!」
疲労を感じさせない表情に疑念を抱きながらも駈は椅子に腰を下ろした。
「いただきまーす!」
「……いただきます」
元気よく夕飯を食べる早苗とは反対に、駈は箸を持つ手が震えるほど疲弊していた。ゆっくりと、少しずつ口に運んでいく。
「どうしたのお兄。体調悪い?」
あまりに遅いペースで口に運ぶ様子に心配そうな顔をしながら早苗が声をかけてきた。どれくらいの時間が経ったのか分からないが、早苗はすでに半分以上食べていた。
「体調は大丈夫だと思う。ちょっと疲れただけ」
「それならいいけど」
夕飯をとったら少しばかり疲労も取れるだろうと、そのまま口に運ぶ。いくらか回復したのか、震えも止まり思考もまとまっていた。
「てか、今日楽しかったねー」
早苗は空になった食器をそのままにし、話しかけてきた。それも今日のプールのことを言っているようで、駈はどう返そうか考える。
「ああ、そうだな。楽しかったな」
「あ、やっぱり楽しかったんだ! お兄、ずっと笑ってたもんね」
「うるせ」
意を決して本音を言った駈は早苗の返しに恥ずかしくなったのか、素麺を口に少しだけ運んだ。自分でもあんなに笑えるのかと思うほどアスレチックで遊んでいた時は笑顔になっていた。今思うと、今までの駈とは正反対な印象だ。
「ちゃんと体力付けなよー」
「余計なお世話だっつの……あ」
いつものようにからかってくる早苗は楽しそうな表情を浮かべていた。しかし駈は何か思い出したかのように早苗の方を見ながら呼ぶ。
「なあ早苗」
「え、どしたの。素麺いらない?」
食べ盛りにもほどがあるだろ、とツッコミを入れたい気持ちを抑えながら言葉を続ける。
「プールの時もそうだったけど、ちゃんと自分のことやってから次のことやりなよ。さっきも荷物置きっぱなしだったぞ」
「えーお腹空いてたんだもん」
不貞腐れた表情を浮かべる早苗に軽く苛立ちを覚えながらも、何とか抑え込む。一つ小さい溜息を挟んでから続ける。
「今も食器片づけないでいるだろ。俺がいなかったらどうするんだよ」
「その時はちゃんとやるもーん、ごちそうさま!」
「あ、早苗! ったく、もう……」
説教されるのが嫌なのか、早苗は食器を片付けるとリビングを後にした。あまりの早さに駈は言葉を挟む余裕もなく、一人取り残される。
別に頼ることが悪いわけではない。しかし、いつでもどこでも駈がいるわけではないし、普段ちゃんとしているのか心配だっただけなのだ。プールの余韻に水を差したいわけでもないので、黙々と食事を続ける。
「ん?」
突然テーブルに置いてあったスマホから振動が伝わってきた。
『お茶飲みたいから私の部屋に持ってきてー』
『そういうとこだっつの』
早苗からのメッセージに思わず本音で突っ込むが、駈に後悔はなかった。しかし、ありのままを伝えたつもりだったが早苗が降りてくる気配はない。駈は空になった自分の食器を片付けると冷蔵庫から茶が入ったペットボトルを取り出した。
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