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丘の上で結わう花  作者: pan
第1章 退屈な日常が、変わる
30/63

第30話 夏のプールは楽しい、かも④

 その後も夏のプールを満喫した(かける)たち。楽しい時間もあっという間に終わり、一同は駅に向かっていた。


「あー楽しかった! また行きたいねー」


「ほんそれ! マジ楽しかった!」


 前を歩いていた早苗(さなえ)たちは今日のことで話題が持ちきりのようだ。そこには結花(ゆいか)の姿もあり、一緒になって騒いでいる。


「今日は楽しかったなー。な、駈」


「そうだな……ってなんでにやけてるんだよ」


 駈はどうしてか口角が上がっている速人(はやと)に目を細めた。前後に何か面白いことがあったわけでもないのに何をにやにやする必要があるのだろうか。すると速人は顔を近づけ、小さい声で答え合わせをする。


「……結花ちゃんのこと、親の気分ってやつだよ」


「……そういうことか」


 速人と彩夏(さやか)には事前に結花のことは知らないという体で過ごしてほしいと伝えていた。だから速人はわざと小声でいたのだ。もちろん結花にも同様のことは伝えてある。


 それにしてもこの前の遊園地といい、今回のプールといい、速人の何食わぬ顔で過ごすさまにはどこか恐怖を感じる。


「おーい、二人して何こそこそしてんの」


 気になっていたのか共に行動していた美術部員の男が間に入ってきた。


「ああ宮地(みやち)くん、なんでもないよ」


「いや何でもないわけないだろー、片桐(かたぎり)とそんな仲良さそうにしてさー」


「ま、本当に何もねぇから。駈を問い詰めるなよー」


 えー、と肩を落とす宮地にまわりは笑い始めた。その中には駈の姿もある。同級生との何気ない会話。同級生との外出。どれも高校生活を諦めていた駈にとっては新鮮で愉快だからか、みんなとは違う優しい顔で微笑んでいた。


「お(にい)! 電車あと数分で来るよー!」


 仲良く談笑していた駈たちは時間を忘れていた。駅に向かうスピードも遅くなっていたのか早苗が急かす。


「え、嘘……って本当じゃん」


「おっしゃ! 競争だ!」


「うちも混ざるー!」


 スマホで時刻を確認した駈をよそに駅に向かって走る速人と彩夏。足はもう大丈夫なのか気にしている様子もない。


「あーもう……」


 残された駈たちは呆れた表情を浮かべながらも早苗たちの方へ向かった。



 ◇◇◇



 いつも通りの景色にたどり着いた駈たちはそれぞれの帰路につこうとしていた。


「……あーよく寝た」


 混雑を避けるために早く出たのが吉となったのか、みんなが座れるほど電車内は()いていた。それを確認した早苗は駈を隣に座らせ肩に頭を乗せると、到着するまで寝ていたのだ。


「寝すぎなんだよ……」


「お兄の肩の高さがちょうどよくて……てへぺろ」


 わざとらしい表情を浮かべる早苗に思わず拳が出そうになったが何とかこらえる。


「……とりま帰ろう!」


「あ、じゃあ俺らはこっちだから」


 速人は遊園地の時と同じく、彩夏と一緒に帰るようだ。そのまま挨拶を交わし、手を振りながら見送った。


 それに続き駈も帰路につこうと、足を運んだが急に腕を引っ張られた。


「……あぶな!?」


「何で一人で帰ろうとしてるの」


 引っ張った犯人はもちろん早苗だった。一緒に帰りたいのか不貞腐れた表情を浮かべている。


「……一緒に帰るか」


「やったー! んじゃみんなも一緒に帰ろ―!」


 駈が返事をした途端に笑顔になった早苗は腕を(ほど)いた。そのままフレンズと結花がいるところに向かい、帰路をたどり始める。駈は早苗の様子に息をつくほど呆れながらも、ついていった。




 駈は決して一緒に帰りたくなかったわけではないが、混ざるに混ざれない状況からか数歩離れたところにいた。年頃の女子高校生のみの空間に根暗な男子高校生が入れるわけがない。


「……お」


 すると突然スマホが振動した。こんな時間になんだよと思いながらも確認する。


『見て―! 速人がくれたー!』


 それは彩夏からのメッセージだった。この前速人が買った猫のキーホルダーの写真も添えてある。

 速人が誕生日プレゼントを渡したいという願いが叶ったようで嬉しくなった駈は一人、優しい表情を浮かべ微笑んでいた。


『駈も犬のキーホルダー買ってたし、これで三人お揃いだな』


『あとで見せてねー!』


 仲睦まじいやりとりに『家に帰ったら送る』とだけ返信し、スマホから目を離した。


「お兄、なんでスマホ見てるの」


「ん? あー神戸(かんべ)さんからメッセージ来てね。速人から誕プレ貰った―って」


「へー、お揃い?」


 早苗は内容が気になるのか、駈の返答をよそにスマホを覗いていた。それに気づいた駈はものすごい勢いでスマホの電源を落とす。


「……あんま人の会話見るな。まあ、お揃いってのは俺と駈と彩夏でってこと」


「お兄ってお揃い出来るくらい仲のいい友達いたんだね……」


「うるせぇな」


 駈はぶっきらぼうに顔を背けると、それが面白かったのか早苗たちは声を上げて笑い始める。


(少し馬鹿にされたような気もするが、今はこの空気に浸っておこう)


 駈は少し赤らんできた空を見つめ、今を噛み締める。駈にとって大変だと思っていた一日はもうすぐで終わりを迎える。今まで退屈な夏休みを過ごしていた駈は、妙な高揚感を抱いていた。


 ずっと目を逸らし続けるのもどうかと思った駈は早苗たちのほうに視線を戻す。

 その途中、不意に目に入った結花の表情は優しく、無邪気で、本心から楽しんでいると伝えてくる。そんな笑顔をしていた。

プール編終了です、次どうしよう……


お読みいただき、ありがとうございます。

よろしければ評価(下の☆マークのとこ)やブックマーク登録等していただけると嬉しいです。

感想もお待ちしてます。


(7/3 追記)

次の更新は7/10(月)になります。

詳しくは活動報告に書いていますので、読んでいただけると幸いです。

修行すっぞ!

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