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丘の上で結わう花  作者: pan
第1章 退屈な日常が、変わる
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第28話 夏のプールは楽しい、かも②

 (かける)早苗(さなえ)たちと合流すると、腕を引っ張られた。疲弊している駈はされるがままに次のアトラクションへと連れていかれる。


 次へ次へと連れていかれ、気づけばウォータースライダーを全制覇していた。


「んー! 全部終わったー!」


 早苗は元気が有り余っているのか、終始同じテンションで過ごしている。フレンズも結花(ゆいか)も楽しんでいるのか疲労を感じていないようだ。


 駈はというと、今まで感じたことのない疲労で立っているのがやっとだった。


「お(にい)、大丈夫?」


「……大丈夫、早苗たちが元気すぎて、疲れただけ……」


 さすがに心配になったのか、早苗は顔を覗きながら声をかけた。それに返答しまいと頭を上げた駈は息を切らしながら答える。


「んーちょうどいいし、どっかで休憩する?」


「さんせーい!」


 ここまで休憩なしで遊んでいたため、駈は安堵の表情を浮かべた。重くなった体を無理やり動かし、先に休憩スペースに向かっていた早苗たちを追いかける。


 遊びを楽しんでいる客がほとんどなのか、意外にも席は空いていた。


「……あー疲れた」


「お兄、情けないよー。体力つけなって」


 やっとの思いで体を預けることが出来た駈は、椅子に座ると同時に力が抜けた。その姿はまるで軟体動物のようにふにゃふにゃで男らしさなど感じない。さすがの早苗も苦言を呈すほどだったのか呆れていた。


「それじゃ私たちは食べ物とか買ってくるからお兄は待っててねー」


 そういうと早苗たちは売店のある方へと向かった。やっと訪れる一人の時間。先ほどまで賑やかだった空気にどこか寂しさを感じながらも、体を休ませる。


 まわりを見渡してみると学生は多いものの、家族連れもちらほら見えた。それぞれの楽しみ方があるのか、ボール遊びや水鉄砲、ただひたすらはしゃいでいる子供の姿。


(あれは……)


 はしゃいでいる子供の姿かと思ったら速人(はやと)たち一行だった。ゆったりと流れるプールの中で水を掛け合っている。あれが高校生の青春とやらなのだろうか。楽しんでいるならそれでいい、と他人主義な駈は速人たちの姿を見て思わず微笑む。


「……ふう」


 息をつきながらテーブルに乗せた腕は軽く、いつの間にかある程度疲れが回復していたようだった。


「あ、駈さん。もう大丈夫そうですね」


「お、結花か……あれ、早苗たちは?」


 駈が悠々としていると戻ってきた結花に声を掛けられた。結花は一人で戻ってきたようで、まわりに早苗たちの姿はない。


「早苗ちゃんたちはまだ並んでますよ。私はお手洗いに行っていただけなので」


 結花はそう言いながら空いていた椅子に腰を下ろした。


 周囲が賑わいをみせる中、駈と結花が座っている席には静かな時間が流れていた。決して居心地が悪いとか、そういう(たぐい)のものではない。いつの間にか駈は二人きりでいる時間に慣れていた。


 その時間が愛おしく感じながらも、結花を楽しませたいと思っている駈は口を開く。


「……今日、楽しい?」


 出た言葉はあまりにも不器用で、幼稚だった。遠回しな言い方とか器用な動きができない駈には直接聞くことしか出来なかった。結花はきょとんとした表情を浮かべながら答える。


「え? 楽しいですよ、どうしたんですか」


「え、いや、まあ楽しいならそれでいいいんだけど」


「もう、急にどうしたんですか駈さん」


 駈は言葉を返されることを考慮していなかったのか動揺を隠そうと姿勢を正す。それを見ていた結花は笑っていた。何も面白いことはしてないと思っている駈は小馬鹿にされているのかと不満げな表情を浮かべる。


 すると何を思ったのか、結花の表情が突然曇り始めた。


「もしかして、私があのこと気にして楽しんでないかも、とか思ってました? ……ってやっぱり駈さんわかりやすいですね。全部顔に出ています」


 核心を突かれたのか駈は驚愕の表情を浮かべ、固まっていた。


「……その通りだよ、楽しいならいいんだけどね」


 駈は何とか平常心を取り戻し、いつもの口調で言葉を並べる。

 いつから顔に出ていたのだろうか。今まで指摘されたことなかった駈は内心戸惑っていた。


「気にする暇がないと言ったら嘘になりますが、純粋に楽しめてますよ。さっきだって駈さんがあそこで滑ってた時の様子が面白くて、みんなで笑っていましたし。あと最初に乗ったやつも――」


 結花はどこか暗い表情を浮かべながらも坦々と言葉を繋げる。本当に楽しんでいたのか、駈のことをからかいながらも先ほどまでのことを語っていた。


 流れるように話を続ける結花を見ていた駈の表情は次第に柔らかくなっていった。


「――だから駈さんも気にしないで楽しんでください」


「ん? 俺も楽しんでるけど」


 最後に投げかけられた言葉を正直に答えたつもりだった。しかし結花は暗くなった表情を戻すことはない。何事かと思った駈は先ほど言われた言葉を思い出した。


「……もしかして顔に出てた?」


「そうですよ、疲れていたのかもしれないですけど」


 楽しんでいたつもりで、結花のことを気にするあまり楽しめていなかったのかもしれない。それが表情に出ていたのかもしれない。


「だから駈さんは気にせず楽しんでください。一緒に」


 結花は駈に真剣な眼差しを向けていた。その眼差しと『一緒に』という言葉で、駈はある答えにたどり着く。


 ――本人が楽しくないと、相手を楽しませることはできないのではないか。


 今まで楽しませることばかりを考えていた駈には盲点だった。それもそうで、まわりが楽しそうに過ごしている中で一人考え事をしていたら空気を乱してしまう。


 でも自分が楽しんだところで結花が楽しんでいることにはならないのではないか。考えても仕方ないことを考えてしまう。少しばかり残っている疲労からか悪い癖が出やすくなっていた。


「……まあ、気にしないで楽しむよ。結花も――」


「――何話してるのー!」


 早苗たちは買い物が終わったのか、いつの間にか戻ってきていた。駈は恥ずかしかったのか、慌てて結花と向き合うように座っていた体を右に向ける。


「と、特に話してないよ」


「えー、何か話してたじゃーん。そんな言えないことでも話してたのー?」


 早苗は駈の隣に腰を下ろしながら煽ってきた。早苗たちの前では話せない内容であったため、そっぽを向きながら黙ってみる。しかし駈とは裏腹に結花は口を開く。


「お兄さんが早苗ちゃんのこと聞いてきたんだよ」


「え、そうなの!? やっぱりお兄も私のこと好きなんだ―」


「は!? まあ嫌いではないけど……って抱き着くな! 危ないって!」


 結花の優しい嘘で静まり返っていた空気は賑やかになった。早苗も結花もフレンズも、みんな笑っている。


(楽しませるとはこういうことを言うのだろうか。……いや、もう考えるのはやめよう)


 そう思った駈はもう一度まわりを見てみる。


「……ねえお兄、こはるんのこと見すぎじゃない?」


「な……!?」


 いつの間にか無邪気に笑う結花ばかりを見ていたらしい。指摘された駈は恥ずかしさで遠くの方へ目をやった。

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