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丘の上で結わう花  作者: pan
第1章 退屈な日常が、変わる
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第25話 作戦会議

 (かける)は夕飯を食べ終わり、夏休みの課題を消化しようと机に向かっていた。


 今日の早苗(さなえ)はいつもと様子が違い、なんとなく居心地が悪かったため自室に逃げ込んだ。事実、夕飯を共にしている間に会話はなく距離を感じていた。駈は自分が何かしたのかと後ろめたい気持ちになったが、心当たりがない。


 自室に入ったはいいものの、特にすることもなかったので今に至る。


(それにしても課題多いよなあ……)


 駈が通っている学校が進学校だからなのか、課題の量が計画的に取り組んでいかないと夏休み中に終わらないほど多い。しかし、根は真面目な駈は毎日コツコツと消化していっているので問題はない。このままいけばお盆前には終わるはず……。


 順調に課題を進めていると、机の上に置いていたスマホが振動した。


『駈さん大変です!』


 焦っている狐のスタンプと共に送られてきたメッセージは結花(ゆいか)からだった。『どうした?』とだけ返信すると、すぐに既読がついた。


『急なんですけど、明日のお昼に丘に来てください!』

『作戦会議です!』


 急に送られてくる内容に茫然としながらも、断る理由がないので『わかった』とだけ送る。その後結花からの連絡はなく、どこか怪しさを感じながらも課題に戻った。



 ◇◇◇



「駈さん、やばいですよ!」


 翌日になり、丘で合流した駈と結花はいつものように木の下で隣り合うように座っていた。結花は昨日のメッセージと同じように焦りを見せていた。


「ま、まあ落ち着いて。作戦会議って言ってたけど、どうしたの」


「来週プール行くことになったんですよ!」


 駈はなだめるように声をかけたが、興奮状態の結花は落ち着こうとせずそのままの勢いで答えてきた。


 話を聞くと結花は昨日プールに誘われたらしい。誘ってきた相手は早苗で、フレンズも一緒に遊びに行く約束をしたのだという。それで『作戦会議』ときたら、理由は()()しかない。


「……つまり尻尾が出るかもしれないから作戦会議を開くと?」


「そういうことです。駈さんに遊園地に行ったときの私の様子も聞きたいですし」


 急に真剣な表情を見せる結花に驚きつつも、駈は遊園地での出来事を振り返った。


「まあ早苗のことだから面白半分で何かしら驚かせてくるだろうからなあ……」


「それぐらいならどうってことないんですけど……その……」


 結花は照れているのかモジモジしながら言葉を詰まらせていた。


 何をそこまで恥ずかしがっているの、そこまでして言いにくいことなのだろうか。そう疑念がわいた駈は思わず首を傾げた。


「その……えっと……」


 結花は依然とモジモジしていた。妙に気まずい空気を感じとっていた駈は頬を掻いた。そんなに言いにくいことなら言おうとしなくていいのに……。


「あの、そんなに言いにくいことなら無理して言おうとしなくても……」


「あ、いや、言えないとかそういうことじゃなくて……よし」


 この空気感に耐えられなくなった駈は本心を声に出していた。しかし結花はその言葉のおかげで決心したのか、小さく拳を握った。


「私……水遊び、それこそプールとか海で遊ぶのが大好きなんですよ。それでテンション上がりすぎて尻尾が出ないかなーって、あはは」


「……あーなるほど、そっちね」


 てっきり別のことで悩んでいるのかと思っていた駈は拍子抜けだった。結花は照れ隠しで笑っているが、彼女は悩んでいるのだ。何とか力になれないかと思っている駈は気になったことを聞いてみる。


「そういや観覧車に乗ってたとき尻尾出てたけど……」


「あー、それはですね……」


 触れてはいけない話だったのか、結花は表情を曇らせた。駈は気になったことを聞いただけなので罪悪感はなく、ただ不思議そうな表情を浮かべていた。


「……観覧車とかお化け屋敷はまわりに人がいなかったので純粋に楽しめてたんです。他のアトラクションは人がいたので、常に尻尾のこと気にしながら楽しんでました、あはは」


 駈は結花の言葉を聞いてハッとした。

 観覧車はゴンドラの中で二人きりで見られることはない。

 お化け屋敷もスタッフがいたとしても順路には他の人はいなかった。

 だけど、お化け屋敷で速人(はやと)たちに会って出口に着いた頃には()()()()()()()()()()


 考えればすぐわかることなのに、なぜ気づかなかったのだろうか。

 乾いた笑いを浮かべる結花は言葉を続ける。


「でも楽しかったのは本当ですよ! また行きたいと思ってますし!」


 結花は重くなる空気をかき消そうと、顔を上げて駈に伝えた。しかし、その時の表情はどこか寂しさを感じさせる。明らかに無理をしているように見えた駈はどんな言葉をかければいいかわからくなっていた。


「……駈さんが来てくれれば少しは気にせずに遊べるんだけどな」


「……それってどういう……?」


 駈は何もできない無力感に押しつぶされそうになっていたが、結花の言葉が気になったのか反応した。結花は聞こえていると思っていなかったのか、少し驚いた様子を見せた。


「私、気づいてましたよ。お化け屋敷で片桐さんたちと会った時に、尻尾が見えない位置に移動するように立ち回ってたの。だから、プールの時も駈さんがいたらなーって思って……」


 坦々と言ってくる結花の表情は徐々に柔らかくなっていた。


「……まあ、それは早苗ちゃんがいるから厳しいですよね!」


 自分が言ったことに気づいたのか、照れ隠しで咄嗟に言葉を付け加えた。


 結花は楽しみたいのに、過去のトラウマから尻尾のことを気にして楽しめないのでないか。

 かと言って、自分が結花たちのプールについていくなんて言えるはずもない。


 対策が何も思いつかないまま、ただただ沈黙だけが続いた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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