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丘の上で結わう花  作者: pan
第1章 退屈な日常が、変わる
24/63

第24話 お揃い

 夏休みだからか、ショッピングモール内の人の多さは休日と似ている。フードコートも家族連れや学生で溢れかえっており、賑わっていた。


「んで、どんなのがいいと思う?」


「どんなのがいいって……俺に聞くことか……?」


 速人(はやと)(かける)に相談を持ち掛けているのか、頬杖をつきながら聞いていた。それが人に意見を聞く態度なのかと疑問を持ちながら、駈は答えになっていない言葉を返した。


 速人は彩夏(さやか)に誕生日プレゼントをあげたいらしい。いつの間にそんな仲になったのかと思えば、なんでも去年彩夏から誕生日プレゼントをもらったからお返しをしたいという。だから今回はいつものように彩夏を含めた三人ではなく、駈と速人の二人でいる。


「俺に聞いたって参考にならんだろ。他の男子とか女子に聞かないのか?」


 駈は自分が呼ばれた理由が分からず、そう言葉を続ける。速人なら男子にも女子にも人気があるのだから、聞ける人は他にいくらでもいるだろうに。


「いやーこういうのある程度仲がいい奴じゃないと聞けないし、それに俺と彩夏と仲がいい奴って考えると少ないしさ」


「だからって俺に聞くのかよ……」


「駈は妹もいるし、結花(ゆいか)ちゃんと仲いいし、女子の好み知ってるかと思ってさ。ほら、この通り!」


 速人は手を合わせて頭を下げてきた。


 何故そこまで必死なのかは、きっとお返しはちゃんとしたいという速人の真面目さからきているのだろう。だからと言って妹、それにある程度仲のいい女子がいるだけで駈には女子の好みなど知っているわけもなかった。


 頭を下げ続ける速人を見ていた駈は負けたのか、大きく息をつき渋々受け入れた。


「わかったよ……とりあえず、速人はプレゼントに何もらったんだよ」


「本当か! ……これだよ、学校のカバンにつけてたやつ」


 速人はスマホを取り出して、アルバムの中からカバンの写真を見せてきた。そのカバンには『鷲のキーホルダー』がついていた。キーホルダーと言っても小さいぬいぐるみがついたものであり、とてもかわいらしい印象を受ける。


「あ、これって急に付け始めたやつだよな。神戸(かんべ)さんからの誕プレだったのか」


「そうそう。カバンも寂しかったし、貰い物だから申し訳なくてつけてるのよね」


 それは今年の四月のはじめ、二年生に上がってからすぐのこと。


 教室で駈は本を読んでいたのだが、あまりに上機嫌で教室に入ってくる速人が気になり目で追っていた。速人が席に着くと、どこからかキーホルダーが出てきてカバンに付け始めた。キャラじゃない速人の行動に若干戸惑った駈は本の世界に戻った。


 その時のことを思い出していた駈は腑に落ちた表情をしていた。


「まあ、そういうことだから駈に頼んでるんだよ。何かいいのない?」


「同じ感じのキーホルダーでいいんじゃないの。神戸さんなら猫っぽいし、猫のキーホルダーとか」


「やっぱそうなるよなー……んー……」


 駈が興味なさそうにぶっきらぼうに言うのと反対に、速人は真剣に考えているのか眉を寄せていた。何をそこまで気にする必要があるのかわからない。


「友達から貰うものって何でも嬉しいんじゃないのか。キーホルダーにしとけばお揃いみたいになって、いかにも友達ですって感じになるし」


「……なるほど。友達ならお揃いでも嬉しいか……」


 駈から助言をもらった速人は何か引っかかっていたものが取れたのか寄せていた眉を解き、首を縦に振り始めた。


「よし! じゃあ同じ感じのキーホルダーにするか、駈も何か買おうぜ」


「いや、俺はいいだろ。神戸さんが俺から誕プレ貰ったって嬉しくないだろうし」


「いやそっちじゃなくてキーホルダーな。お揃いにして仲いいアピールしようぜ」


 勘違いしていた駈は恥ずかしさよりも、速人の楽観的な様子に肩を落とした。


 しかし速人がそこまで悩むなんて珍しい。何故そこまでして彩夏に渡すものを考えていたのか。まあ、真面目過ぎるが故に熟考してしまったのだろう。今はそのことを聞かないで買い物に付き合うとするか。


 どこか足取りが軽い速人はいつの間にかフードコートの外におり、駈は急いで席を後にした。




 ショッピングモール内の店を回って、彩夏の誕生日プレゼントを探す駈と速人は目的のものがあるお店に着いていた。


「お、この猫とか彩夏っぽくね?」


 速人が手に取ったキーホルダーは白い猫で、目元がキリっとしていて凛々しく、それはまさに彩夏の顔に似ているといっていい見た目をしていた。あまりにも似ているので、駈も共感の声を漏らした。


「確かに。似すぎてる……あ」


 すると駈は何か見つけたのか、そこを見つめていた。


「んじゃ、俺はこれ買ってくるわ。ってなんだその犬の顔、駈の気の抜けた顔にそっくりだな」


「ん? ああ確かに」


「駈もそれ買ってお揃いにしようぜー」


 速人はキーホルダーを持って立ち上がるとレジに向かった。その速人をよそに駈は犬のキーホルダーがあるところを見ていた。


 数秒悩んだところで駈もキーホルダーを手に取り、レジに向かった。すでに会計を済ませていた速人はスマホで誰かと連絡を取り合っていた。


「あ、駈、来週の平日どっか暇?」


 速人は店から出てくる駈に気づくと、スマホの画面を見せてきた。


「……プール?」


 駈が確認すると、彩夏からのメッセージでプールの誘いだった。


「そうそう。なんか美術部の人たちで行くらしいんだけど、俺らも来ないかって」


「急だなあ……まあ俺はいいけど」


「俺も行くよ。彩夏に誕プレ渡せそうだし」


 そう言うと速人は彩夏に一緒にプールに行く旨のメッセージを送った。


 プールなんていつぶりだろうか。夏っぽいこと自体久しぶりかもしれない。



 ◇◇◇



 買い物をした後、そのまま解散となった。家に着いた駈はどこかそわそわしていた。


「ただいまー」


「お(にい)、おかえりー! 今日はどこに行ってたの?」


 いつものように駈が帰って来るや否や抱き着く早苗。連日出掛けている駈が気になるのか抱き着いたまま上目遣いで聞いてきた。


「あー今日は買い物だな、速人と」


「……へ、へー、速人くんと、へー」


 急に表情が固まったかと思ったら離れていく早苗に駈はきょとんとしていた。男同士で出掛けることに何か気に障ったのだろうか。別に不自然ではないと思うのだが。


「あ、今日はお兄が料理当番だからよろしくねー」


 カクカクした動きでリビングのドアを開けたと思ったら、感情がなくなったように棒読みで伝えてきた。わけもわからない駈は首を傾げながらも、料理をしなければいけないため急いで自室に向かった。


 持って行ったカバンを机の上に置き、今日買ったキーホルダーをカバンの中から取り出す。腑抜けた顔をしている犬は駈の顔とどこか似ていて不覚にも笑ってしまう。


 そのまま学校用のカバンに取り付け、()()()()()()()()()()()()()()()()を机の上に置いた。

筆が乗ったので本日二本目です。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


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