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丘の上で結わう花  作者: pan
第1章 退屈な日常が、変わる
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第22話 帰り道

 閉園時間を迎えた遊園地だったが、帰りの電車はあまり混んでいなかった。座席の空きがまばらで立っている人もそこまでいない。その中、(かける)結花(ゆいか)は隣り合わせで座っていた。


「……んで、何で他の席空いているのに隣に座ってるんですか」


「いやーいいじゃない」


 駈は不満げに隣に座っている男をにらみつけた。しかし男は笑っているようで、動く気はないようだ。


「……あの、お二人は駈さんの何なのでしょうか?」


 結花は気になるのか、駈のわきから覗き込んで()()に質問した。


 二人とは片桐速人(かたぎり はやと)神戸彩夏(かんべ さやか)のことで、閉園時間ギリギリまで遊んでいたのか帰りの電車が同じだった。たまたま乗り込んだ号車も同じで、今に至る。


「こいつは片桐速人って言ってクラスメイト。で、その隣にいるのが神戸彩夏で速人とよく一緒にいる」


「あ、駈さんと同じ学校の人なんですね!」


 結花は緊張が解けたのか、強張っていた表情を柔らかくした。結花にとっては知らない二人組に駈が絡まれているようにしか見えなかったのだろうから、緊張していたのも無理はない。


「ってよく見たらお化け屋敷で見かけた人……」


 結花は思い出したのか、囁くように呟いた。


「そうそう、お化け屋敷でめっちゃビビってた二人」


「仕方ないだろー、あそこめちゃくちゃ怖かったんだから」


 駈のいじりに速人は一瞬眉をぴくりとさせたが素直に認めたようで笑っていた。




 その後は遊園地内のアトラクションの話や学校でのことなど、たわいもない話で盛り上がっていた。あっという間に打ち解けた結花は彩夏との相性がいいのか、常にハイテンションでいた。なんだか合わせてはいけない組み合わせな気がする。


 気付けば降りる予定の駅に着いており、四人は慌てて開いているドアに向かった。


「んじゃ、俺たちはこっちだから」


「二人ともまたねー!」


 改札を抜けて軽く挨拶をした四人はそれぞれの帰り道に足を運んだ。気づけば傾いていた太陽も建物の陰に隠れるほど沈んでいた。


 駈と結花は帰り道が一緒なのか、並んで歩いていた。駈は見慣れた景色なはずなのに、どこか新鮮な気持ちになっていた。


「片桐さんと神戸さん、いい人ですね」


「そうか? 関わっているとろくなことないぞ、ずっとさっきみたいにからかわれるし」


 ここに来るまで、速人には小さい頃の黒歴史や結花の話でいじられていた。それを思い出し、駈は少し恥ずかしくなったのか顔が赤くなっていた。


「でも駈さん楽しそうでしたよ? 特に私の名前出されたときとか」


「え、何、結花もいじってくるの」


 駈はうんざりとした表情を浮かべながら肩を落とした。ふと結花に目をやると声を上げて笑っていた。その表情を見た駈は、まだこの時間が続けばいいのに、と叶うはずのない願いを心の中で唱えていた。


「――あ、私こっちなので、ここで」


「お、おう」


 その時の結花の表情はどこか寂しく、家がある方向を指さした後もそちらに向かわずに立ち止まっていた。駈が短い言葉で返事をした後は沈黙が続いた。


「――家まで送っていくよ、まだ時間あるし」


「本当ですか!」


 駈はこの状況がたまらなくなり、思わず柄にもないことを言った。それに暗かった表情を浮かべていた結花はまだ一緒にいたかったのか嬉しそうに返事をした。


「……まあ心配なだけだから、嫌だったらいいんだけど」


「嫌なわけないですよ! もう!」


「あ、ちょ、待って!」


 恥ずかしくなった駈は咄嗟に言葉を付け加えたが、逆効果だったようで結花は怒りをあらわにしながら体を家がある方向に向けた。駈はそのまま足早に家に向かおうとする結花の様子を見て、急いでついていった。




 結花を家まで送っている途中に、ある丘の上にある木が目に入った。


「あれ、あの木って……」


 その木は桜丘(さくらがおか)神社の丘にある木だった。どうやら結花の家から近いところに神社はあるようだ。


「あ、駈さんと私が初めて会った場所ですね!」


「いや、まあそうだけど……」


 呟いたつもりが結花に聞こえていたようで、言葉が返ってきた。また駈はからかわれていると思い、呆れた表情を浮かべていた。


「あ、家に着きました! 送ってくれてありがとうございます!」


 いつの間にか家に着いていたらしく、結花は元気よく告げた。


 その家は周辺では珍しく和風な装いで、周りも塀で囲われていて屋敷のような印象を受ける。建てられてから時間が経っているのか塗装は所々はがれていた。一見目を引くその建物は神社の裏手にあり、雰囲気に馴染むように建っていた。


 駈は呆気にとられていたのか、結花の家を見ながら口を開いいていた。


「駈さん、どうしました?」


「いや、家でかすぎないかと思ってな……もしかしてお金持ちか?」


 駈は驚きのあまり頭が回らず、変な質問をしてしまった。あまりにも広い敷地で塀に囲まれた屋敷のような家を見てそう思わない人はいないだろう。


「変なこと聞きますね、私にはわからないですよ」


 笑って答える結花からは寂しさを感じることはなかった。もうすぐ終わる楽しい時間に思い残すことはない様子だった。


「今日、とても楽しかったです! また遊びに行きましょうね! それでは!」


「おう、またな」


 互いに軽く挨拶すると、駈は自分の帰路に向かった。結花は、そのまま足を運ぶ駈の姿を見えなくなるまで目で追っていた。それに駈は気づくわけもなく、結花の言葉を振り返っていた。


(また遊びにいきましょう、か)


 そんなことを言われると思っていなかった駈は照れながらも、どこか嬉しくなっていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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