第21話 デートではない、はず④
「あー疲れた……」
お化け屋敷から出た駈は近くにあったベンチに座り弱音を吐く。想像以上の恐怖体験に加え、速人と彩夏に遭遇した衝撃で身も心もくたびれていた。
「いやーすごかったですねー……特に最後の花子さんは驚きすぐて思わず全力で逃げちゃいました」
結花は照れ笑いを浮かべながら、空いていた隣に腰を下ろした。
互いに思ったより疲弊していたのか、その後は会話を続けずにぐったりしていた。
しばらく沈黙が続き、ある程度回復してきたところで駈はお化け屋敷の出口付近から聞こえる賑やかな声に目をやった。そこには速人と彩夏がおり、なにやら騒いでいた。するとスマホが振動しだし、忘れかけていた恐怖心がぶり返し思わず肩をビクッと震わせた。
確認すると速人からのメッセージだった。
『なあ、お札って七枚だよな!?』
『は? 六枚だったろ、スタッフさんに七つ目を知ると呪われるって言われたけど』
おそらく二枚重なってて気づかずに持ってきたのだろう。そう思った駈がだ面白くなったのかメッセージを続けて送った。
『まあ呪いを受け入れるしかないよな……ドンマイ……』
既読がついたと同時に騒ぐ速人たちを見て、駈は肩を震わせて笑った。
「……駈さん? 何で笑ってるんですか、怖いですよ」
スマホ片手に一人で笑う駈を見て、結花は冷ややかな目を向けながら声をかけてきた。
「ああ、ごめん。友達が面白くて」
「そうですか。……ほら、行きますよ!」
結花は不貞腐れた表情を浮かべながら、足早にベンチから立ち去った。駈は急いで持っていたスマホをしまい、結花の後を追った。
◇◇◇
気づけば太陽は西に傾き始めていた。多かった来場者もまばらになっており、閉園時間が迫ってきていることをひしひしと感じさせる。
「これで最後ですね!」
二人は最後に乗るアトラクションになるであろう観覧車の待機列にいた。
この観覧車は遊園地の看板で最高到達点はどのアトラクションよりも高くなる。そのため園内を一望することができ、このアトラクションを最後に乗る客が多いのだとか。
「それでは、次にお待ちの方どうぞー」
いつの間にか順番が回っていたいたのか、スタッフに促されるままにゴンドラに乗り込んだ。その中は思っていたよりも広く、家族連れでも余裕で座れるほどだった。
二人は互いに向き合うように座り、楽な姿勢をとった。その後は一日を振り返るように乗ったアトラクションやお化け屋敷の話をしていた。
「あ! 駈さん見てください! アトラクション全部見えますよ!」
いつの間にか折り返し付近まで来ていたのか、園内を一望できる高さになっていた。結花はそれに気づいたのか立ち上がり、回ったアトラクションを見てはしゃいでいた。
結花は気づいていないのか出ている尻尾は大きく横に揺れており、そのはしゃぎっぷりに駈は思わず笑みをこぼした。
「本当に楽しかったんだな」
「はい! もちろん!」
駈から不意にかけられた言葉に振り返った結花の顔は無邪気な笑顔で、眩しかった。
すると何か思い出したかのように結花はスマホを取り出した。外の景色でも撮るのだろうと思った駈はそのまま見守っていた。
「駈さん、写真撮りましょう!」
「え、ちょ、待っ――」
結花は突然駈の隣に座り、慣れた手つきでスマホを構えた。駈が抵抗する暇もなく切られたシャッターは無情にもゴンドラの中に響いた。その写真の中の駈はポーズや表情を作る暇がなかったためあまりにもひどい写り方をしていた。
「撮るなら言ってくれよ……」
「言ったら写ってくれないと思ったので、無理やり撮っちゃいました!」
実際駈は写真に撮られるのが苦手なため図星だった。駈は無邪気に笑う結花を許してしまう自分の甘さに対して息をついた。それをよそに結花は撮った写真を保存していた。
「……それ保存してどうするんだ? 俺の写り方だいぶひどいだろ」
「別にいいじゃないですか、私が撮りたくて撮ったんですし!」
結花は急に照れ臭くなったのか、スマホを抱えて元々座っていた位置に戻った。座ってスマホを見る結花はどこか寂しい表情をしていた。
「もう終わっちゃうんですねー……」
結花は今日を惜しんでいるのか、先ほどの明るい声とは程遠い落ち着いた声で呟いた。降りていくゴンドラは楽しい時間が終わり向かっていることを暗示していて、駈たちはそれに抗うことはできない。
「……また来ようか」
寂しそうな表情を浮かべながら俯く結花を見てたまらなくなった駈は柄にもないことを言っていた。というより駈自身も楽しかったのは事実で、また来てもいいなと思っていた心の声が漏れてしまっていた。
「あ、いや! 今度は早苗とかも一緒にねって意味で……」
「なーんだ……でも、それもいいですね!」
駈は自分が言ったことに気づき、恥かしくなったのか早口で言葉を付け足した。それを聞いた結花の表情は何故かむすっとしていたが駈は気に留めず、誤魔化すように窓の外を見た。
すると到着したのか、施錠された扉が開いた。最後のアトラクションが終わり、どこか物寂しさを感じながらもゴンドラから降りる。
「んー! では帰りましょうか!」
ずっと座っていたからか鈍っていた体を伸ばしながら結花は、終わりを受け入れたのか出口に向かっていた。
(たまにはこういう日があってもいいのかな……)
もうすぐ閉園時刻。駈は楽しかった時間を惜しむように、のそのそと出口に向かう。後ろから見る結花の足どりは軽く、惜しんでいるどころか期待しているようだった。
「……あれ? 駈さーん、早くしないと閉じ込められますよー!」
結花が振り返り、いつの間にか離れたところにいる駈に気づいた。ふざけた冗談を交えながら呼ぶ声に駈は優しい笑顔で応じ、すぐさま駆け寄っていた。
これにて遊園地編終了です。
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