第20話 デートではない、はず③
速人は素直に後をつけていたことを認めたのか、坦々とメッセージを送っていた。
『電車乗る前から見てたけど駈さんよ、どこがデートじゃないんだ?』
『ただ遊びに来てるだけだから、そういうんじゃないんだって』
送られてきたメッセージの中に『デート』という単語を見つけた駈はすぐさま否定した。遊園地に来た理由がお化け屋敷で結花が驚いて尻尾を出さないように協力する、なんてことは言えるわけがなかった。
『とりあえずもうストーカー行為はやめろ』
『まあバレちゃったし今日はやめとくよ』
『んじゃ、デート楽しんでねー』
駈は反省しているのかわからない文面が送られてきて呆れた表情を浮かべていた。しかしこれでお化け屋敷まで来ることはないのでほっと息を吐き、胸を撫で下ろした。万が一、そこで結花が驚いて尻尾を出して見られたもんならたまったもんじゃない。
(電車に乗る前から見ていた……? あ、もしかして……)
駈は先ほどの速人とのやりとりを眺めながらあることに気づいた。電車に乗った時から感じていた視線は速人たちで、この前無理やり服を渡してきたのも見つけやすくするためだったのだろう。そう推測した駈はまた大きく息をついた。
「戻りましたー! ってどうしました?」
いつの間にか戻ってきた結花は顔を覗き込んで声をかけていた。変な心配はかけたくないと、切り替えるように膝に手を当てて立ち上がった。
「何でもないよ。よし、お化け屋敷行こうか」
「はい! 行きましょう!」
駈は休憩中に出たゴミを近くにあったゴミ箱に捨て、そのままお化け屋敷の方向に向かった。
「ちょっと待ってくださいよー!」
置いていったつもりはないのだが、頭から『デート』という単語が離れず無意識に早歩きになっていた。それに気づいた駈は足を止め、結花が隣に来たところで足並みを揃えて目的地に向かった。
◇◇◇
「ここに入るんですか……」
「そ、そうらしいな」
二人はお化け屋敷の受付に着いてから怖気づいていた。
事前に調べた通り学校の七不思議をモチーフとしているため、外観は校舎となっている。しかし見慣れた学校とは違う、何やら不気味さを感じた。それも壁はツタで覆われ、所々窓が割れていたりと廃校舎が舞台となっていたからだ。
「この先に進んでいただくと説明の映像が流れます。どうぞ、お楽しみくださいませ」
受付スタッフが次に進むべき方向に手を倒しながら笑顔で促した。その時の表情に何か含みがあるように思えて、二人は恐る恐る進んでいった。
進んでいくと生徒会室があり、そこでお化け屋敷の概要についての説明があった。
それぞれ七つの怪現象を体験するらしく、その証拠に各体験場所からお札を持ち帰るのがルールとなっている。
「よ、よし行くか」
「駈さん、ビビってます? 声震えてますよ」
駈は結花のいじりに対してツッコミを入れる余裕がなく、足取りが重くなっていた。いきを整えてから意を決して出発した。
動く人体模型や一人でに音がなる楽器など、誰でも聞いたことがある学校の七不思議を体験していった。
「うわああああああ!!!」
「きゃああああ!!」
駈はいつもの落ち着いている雰囲気とは裏腹に起こる怪現象に叫びまくっていた。結花も同様に叫んでおり、その間は尻尾も飛び出していた。
「ちょっと……怖すぎませんか……?」
「ま、まあ残り二つだし頑張ろうよ」
二人は息を切らしながらも順調に進んでいたようで、いつの間にか回収すべきお札が残り二つになっていた。
進んでいくと、そこには女子トイレがあった。かの有名な『トイレの花子さん』を彷彿させるような雰囲気を醸し出している。
「ちょ、早く開けろよ!」
「そんな急かすな! ……よし!」
駈たちが早く着いたのか前から男女二人組の痴話喧嘩のようなやり取りが聞こえてきた。その二人組の女性は赤髪で、男性もどこかで見たことあるような――
「って速人!?」
「うお!? って駈かよ……驚かせんな!」
声につられて駈は奥に進んでいくと、その二人組は先ほどストーカーまがいのことをしていた速人と彩夏だった。
「駈か! ここ開けてくれ!」
彩夏が指示すると、その開いていないドアの向こうから音が聞こえた。この場にいたみんながその音に飛び上がり、肩を震わせた。
しかし駈は誰よりも早く冷静さを取り戻していた。結花の腰を見てみると尻尾が出ていて、この状況をどう乗り切るか考えていたのだ。
「……わかった、開ける」
意を決して、音が聞こえたドアの前に立ちドアノブに手をかけた。結花は怖がっているのか駈の左腕にしがみついており、速人たちからは尻尾が見えない位置にいる。それを確認した駈は勢いよくドアを開けた。
「……ふう、なんもないじゃん」
「ありがとうううう駈うううう」
ドアの先にはお札があり、それぞれ手に取ってトイレから出ようとした。結花も安心したのか尻尾はすでにしまわれていたが、駈は何か違和感を感じたのか振り返って小声で呟いた。
「……トイレの花子さんって三番目のトイレにいるんじゃなかったっけ?」
「……あれ、俺が開けたのが手前のドアで、駈はその隣で――」
その瞬間『三番目のトイレ』から花子さんとおぼしき格好をした女性が飛び出してきた。あまりに当然の出来事に四人は叫びながら道順に沿って走り抜けた。
気づけば後ろには花子さんはおらず、目の前には出口と書かれた案内板を見つけた。駈は思い出したかのように結花の腰を見たが、尻尾は出ていなかった。
「出口だ……」
駈はお化け屋敷の怖さと速人たちに結花の秘密がバレないように立ち回っていた心労で急に力が抜け、腑抜けた声を出していた。
「お疲れ様です。お楽しみいただけましたでしょうか。ではお札を回収いたします」
駈は手に持っていたお札をスタッフに渡した。するとお札を見て何か思うところがあるのか、スタッフは不敵な笑みを向けてきた。
「……あら、六枚しかありませんね。でも大丈夫です。なぜなら、七つ目を知ってしまうと呪われますから……」
急に告げられる事実に駈と結花は思わず顔を見合わせた。確かに『トイレの花子さん』に向かう段階で残り二枚だったので、一枚少なかった。
ここを早く出たくなった二人は、そそくさとお化け屋敷を後にした。
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