第19話 デートではない、はず②
二人は今日の予定を話していると、時間を忘れていたのかいつの間にか遊園地の最寄駅に到着していた。
改札を抜けて目的地に向かう途中、駈は同じ方向を進んでいく男女二人組ばかりが目に入り妙に恥ずかしい気持ちになっていた。
「人多いですねー……」
駈の横を歩いていた結花は増えていく人を見て、小声で呟いた。遊園地に近づいていくと人はどんどん増えていき、入り口では長蛇の列を作っていた。二人はその列に並び、入園を待った。
「いやー楽しみです! 駈さんはどうですか?」
「まあ、俺も楽しみだよ」
「ですよね! 早く入りたいなあ……」
結花は遊園地に一度も行ったことがなく、今日を楽しみにしていたらしい。なんでも家族が揃って出かけることが少く、遊園地のような娯楽施設に連れてってもらうことがなかったのだそうだ。
駈は無邪気な表情をしながら入園を心待ちにしている結花を見ていたからか、待っている間は退屈ではなく無意識に顔がほころんでいた。
「次の方どうぞー」
列が進んでいつの間にか駈たちの番が来ていた。結花は呼ぶ声が聞こえると小走りで向かっていった。
この遊園地は当日券と予約券のどちらかで入園することができ、今回は結花が行きたかった場所ということもあり予約券を利用した。その券を結花が取り出してスタッフに見せた。
「カップル券ですねー! では良い一日を、いってらっしゃいませ!」
「はーい!」
スタッフに見送られ、結花は元気よく挨拶をして先に進んでいた。しかし駈はどこか引っ掛かったのか、疑念を抱いていた。
「ちょっと、カップル券ってどういう……」
「え? まあお得になりますし、安いからいいじゃないですか! ほら、行きますよ!」
結花は理由を聞かれて恥ずかしくなったのか誤魔化すように早歩きで進んでいった。この時若干顔を赤らめていたが、駈はそれに気づくことなく後を追っていた。
◇◇◇
入園してからの結花は子供のようにはしゃいでいた。
初めて来る場所に興味津々な眼差しで眺めていると、最初に乗りたいと言っていたジェットコースターを見つけたのか無理やり駈の腕を引っ張り、そこに向かって行った。
乗り終わったあとも次へ次へと、結花が電車内で話していた予定通りにアトラクションをこなしていった。
「次はあれです!」
「ちょ、ちょっと待って……」
はしゃいでいる結花に振り回され続けた駈は息を切らしていた。
部活に入っていない駈は普段運動もしていないため、ここまで激しく動いたのは久しぶりだったのだ。
「んー、あ、お昼ご飯にしますか」
「そうだな……」
今まで時間を忘れて楽しんでいたため、昼食をとっていなかった。二人はレストランが集まっている場所に向かった。
「さっきのアトラクション、すごかったですね!」
結花は先ほど乗ったアトラクションが気に入ったのか、嬉しそうな表情で話しかけていた。
「さっきのって回転するやつか……」
「そうです! 駈さんの声すごかったですよ、うわあああああって」
「……それアトラクション楽しんでるのか?」
駈は笑っている結花を見て大きく息をついた。駈は絶叫系に乗れないほど苦手というわけではないのだが、いざ乗るとビビりが発動してしまい乗ったアトラクションすべてで叫んでいた。
今まで乗ったアトラクションの話をしていると、目的地に到着した。
「やっぱり混んでますね……」
時刻は二時を回り、いつの間にか入園者が増えていた。どこもかしこも混んでおり、空いている店が見当たらなかった。
「売店で何か買ってどこかで食べるか」
「そうしましょう!」
二人はその場を後にし、またアトラクションの話をしならが向かって行った。その時の結花の足取りは軽く、今日を謳歌している様子がひしひしと伝わってくる。
程なくして売店に着いた二人は買い物を済ませて空いているベンチに座った。意外にも売店は混んでおらず、すんなりと買うことが出来た。
「……ふう」
駈はベンチに腰を落とすと同時に小さく息をついた。結花はすでに売店で買ったサンドイッチを頬張っていた。
「駈さん、この後どこ行きましょうか」
食べていたサンドイッチは一の間にかなくなっており、まだ食べるのか袋の中を漁りながら聞いてきた。
「そろそろお化け屋敷でもいいんじゃないかな」
「そうですね、そうしましょう! あ、ちょっとお手洗いに行ってきますね」
結花は袋の中にゴミを詰めてまとめると、ベンチから立ち上がり去っていった。おう、と簡単な返事だけして見送った駈は周囲を確認した。
駈は遊園地に向かっている時から視線を感じていたのだ。結花には楽しんでもらいたかったためずっと黙っていたのだが、今の今まで後ろから見られているような気がしていた。
「……あ」
後ろを振り返って視線の犯人を捜していると、赤髪の女性がいた。その横には見覚えのある身なりをした男性がいて、両者とも帽子を深くかぶっていた。見つけた瞬間に勘づいた駈はスマホを取り出し、とある人物にメッセージを送った。
男性は突然来たメッセージに驚いたのかわかりやすく飛び跳ね、スマホを落とした。駈はそれを見て疑念が確信に変わった。
『おい速人、なんでいるんだよ』
『いやー面白そうだな―と思って』
駈はその返信を見て、肩をがくっとさせ大きく息をついた。
視線の犯人は片桐速人と神戸彩夏だった。
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