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丘の上で結わう花  作者: pan
第1章 退屈な日常が、変わる
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第18話 デートではない、はず①

 (かける)は夏休み中にもかかわらず少し早めに起床し、朝食をとっていた。


『駈さん、起きてますか?』


 スマホから通知音が鳴り、その音に驚きつつも確認すると結花(ゆいか)からのメッセージだった。


『起きてるよ』


『よかった! では、約束した時間に駅で!』


 駈が返信するとすぐに返ってきた。さっさと朝食を済ませて自室に戻り準備を始める。


 今日、駈と結花は遊園地に行く約束をしていた。しかしデートではなく、あくまで目的はお化け屋敷。デートではないはずなのだが、駈はそわそわしていた。


 考査お疲れ様会で言われた『デート』という単語が頭の中にずっと残って、今日の今日まであまり眠れなかった。実際動揺していたのか早苗(さなえ)の食器を取り違えたり、呼ばれるまでボーっとしている時があった。


「……いって!」


 準備を進めていた駈の足が本棚に当たって思わず大声を出してしまった。


「……お(にい)、どうしたの?」


 その声を聞いて起きたのか、眠たそうな声をした早苗(さなえ)が入ってきた。


「あ、ごめん。起こしちゃったか……」


 痛がりながらも返答する駈を見て早苗は心配そうな表情をしていた。


「……てかお(にい)、どっか行くの?」


「え!?」


 早苗は眠たそうな目を無理やり開け、駈の身なりを見ていた。いつも通りの私服であるが、この服は急に速人から奢ってもらったもので、何故か「当日着てけよ!」と言われたので仕方なく着ているだけだった。

 違和感を覚えた早苗が聞くと、駈は素っ頓狂な出し言葉を続ける。


「まあ、遊びに行くだけだよ」


「ふーん……その割に気合入ってるみたいだけど?」


「いや、そんなことないけど?」


 相変わらず怪しむ表情をする早苗に駈はあからさまに声を裏返していた。


「まあどこに行こうと勝手だけど……気をつけてねー」


「お、おう!」


 早苗は諦めたのか大きく息をつきながら吐き捨てるように言うと、部屋に戻っていった。早苗にバレると面倒なことになると思っていた駈は胸を撫で下ろしていた。


 駈は途中だった準備を再開させ、部屋を後にした。



 ◇◇◇



(早く着きすぎたな……)


 準備をし終えた駈は家にいても何もすることがないので、予定より早く出て集合場所である駅に着いていた。朝だからなのか人の往来が激しく、見ているだけで人酔いしそうだった。


 待ち時間を潰そうと思い、スマホを手に取って今日行く遊園地について調べた。その遊園地は駈も家族と一度行ったことがある場所で知っていた。行ったことがあると言っても小学生の時で、あまり覚えていない。


 その遊園地内にあるお化け屋敷は学校の七不思議をモチーフに作られているらしく、学生に人気があるらしい。怖さにも定評があり、クリア者自体も少ないとのこと。


 お化け屋敷の概要を調べていくうちに駈の顔は青ざめていった。誤魔化すように他のアトラクションや食事メニューを見ようと、開いていたページを移動させた。


「あ、駈さーん!」


 スマホをいじりながら待っていると、聞き覚えのある声に呼ばれた。その声の方を向くと結花が駈に向かってきていた。


「おう、おはよ」


「おはようございます! 早いですね!」


 駈は手に持っていたスマホをポケットにいれながら挨拶をした。


「まあ家にいてもやることないから早めに家出ただけで……」


 駈は恥ずかしいのか当たの後ろに手をやり、結花から目線を外していた。早苗以外の異性と一緒に出掛けたことがない駈は少しだけ楽しみにしていたことを勘づかれたくなかったのだ。


「……そうなんですね! では行きますか?」


 結花は何か気に入らなかったのか一瞬むすっとした表情になったが、表情を戻した。


「そうだな。行こうか」


 駈は改札に向かおうと足を前に運んだ。それを見た結花は急ぐように駈の隣を歩き始めた。

 それに気づいた駈はどこか照れ臭いのか顔が赤らんでいた。


 二人は改札を抜け、ただ会話もせず静かに電車を待っていた。意外にもホームに人は少なく閑散としていた。そのせいか静寂の時間が余計に気まずく感じていた。


「あ、今日は私に任せてください! 行ってみたいアトラクションいっぱいあるので!」


「お、おう」


 お互いに感じた空気を断ち切るように結花は口を開いた。しかし駈は突然のことに簡単な返事しか出来きなかった。


 その後運がいいのか悪いのか乗る予定の電車が到着した。電車内も空いており、二人が座れるスペースもあった。


「……あれ、駈さん座らないんですか?」


 駈は空いているにも関わらずドア側に立っていた。結花の隣に座って周りがどう思うのかが怖かったのだ。人は少ないはずなのだが、どこからか目線も感じていたので抵抗があった。


「いや、大――」


「もう、これからいっぱい歩くんですから座ってください!」


 唐突に勢いよく腕を引っ張られた駈は抵抗できず、そのまま結花の隣に座った。駈は恥ずかしさと申し訳なさでどうにかなりそうだった。


「――じゃあ今日行くアトラクションの順番言いますね!」


 駈の感情をよそに今日の予定を話し始める結花の表情は明るかった。その表情はいつも木の下で話しているときと同じで、駈はいつの間にか落ちつきを取り戻し表情も柔らかくなっていた。

遊園地編に突入です。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


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