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丘の上で結わう花  作者: pan
第1章 退屈な日常が、変わる
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第16話 約束

 突如下の名前で呼び合う関係になった(かける)結花(ゆいか)は、その後も話を弾ませていた。


「そういえば何で名前で呼んだ時、驚いたの?」


 駈は話題を切り上げて、気になっていたことを聞いた。尻尾が出ていたし、驚く要因がわかれば今後の参考になると思ったのだ。


「え!? ……苗字で呼んでるなと思ったら突然名前で話しかけてきたのでびっくりしたんじゃないですかね」


 結花は目線を逸らし、徐々に声を小さくしてそう言った。

 それを聞いた駈は速人(はやと)が『状況にもよるけど、不意を突かれたときとか』と言っていたことを思い出し、勝手に一人で納得していた。


「なるほどな……じゃあこの前俺が冗談で虫がいるって言って驚いてたのは?」


「……それは、虫が苦手なだけです」


 結花は少しの沈黙の後、照れ笑いを浮かべながら言葉を続ける。


「だからあの時すごいびっくりしたんですよ、恥ずかしいです」


「……それだ!!」


『驚かす』方法を模索していた駈はひらめいたのか、突然大声を出した。それに驚いた結花は目を見開いている。


「結花、他に苦手なものとかない?」


「んー……」


 結花は顔を上にあげ、顎に手を当てながら苦手なものを考えた。


 駈は苦手なものに対して驚くのであれば、それを克服すればいいのではないかと考えていた。いい案を思いついたと自負している駈は、興味津々な顔で結花の返答を待った。


「強いて言うならホラーとか……怖いのは結構驚いちゃいます」


「なるほどねー……」


 苦手なものを聞くことに成功した駈は考え込んだ。その様子を不思議に思ったのか結花は首を傾げていた。


「どうしたんですか?」


「いや、苦手なもので驚くならそれを克服すればいいんじゃないかなって思ってさ。でもホラーか……お化け屋敷とか……?」


 結花が尋ねた後も駈は頬杖を突きながら、ぶつぶつと何か言っていた。


「よし! 一緒にお化け屋敷でも行くか!」


「……え?」


 突然言われた言葉に結花は、茫然とした。駈は驚いている結花を不思議そうに思いながら言葉を続ける。


「事情が分かっている俺が一緒に行けば、尻尾出てきても隠せるし抑える練習にもなるんじゃないか?」


「た、確かに! いつ行きますか!」


 先ほどの驚いた表情はどこにいったのか、結花は期待に声を弾ませながら聞いてきた。


「い、いつ行こうか。夏休み中になるのかな……」


「夏休み! いいですね!」


 駈は結花の急な変わりように呆気(あっけ)に取られていた。

 結花は誘われたことに対して嬉しく思っているのか表情は明るく、どこか顔が赤らんでいた。


「それなら私行きたいところあるんですよ! ……あ、そろそろ帰らないと」


 結花は行きたいところを見せようと取り出したスマホの電源を入れ、今の時間が目に入った。


「……では帰ります! 今日も楽しかったです!」


「おう」


 ではまた、と軽くお辞儀してから結花は帰っていった。

 駈も荷物をまとめ、立ち上がった。


「あ、あとで行きたいところ送りますねー!」


 結花が振り返り思い出したかように吐き捨てると、手を振ってきた。駈は一瞬渋ったが小さく手を振り返す。


 それを見た結花は満足げな表情をしてから帰路に戻った。その足取りは軽く、駈はその姿が見えなくなるまで見守っていた。


「よーし、俺も帰るか」


 そう一人呟き、木の陰にまとめていた荷物を持ち上げた。



 ◇◇◇



 学校の鐘の音が鳴り響き、各々席に着いていた。


「よーし、今から考査の結果返していくぞー。出席番号順に取りに来い」


 担任が教壇の上に立ってからそう言うと、一人ずつそこに向かっていた。

 速人が受け取るというところで、担任は口を開いた。


「おー片桐、今回も一位か。よくやったな」


「ありがとうございます」


 速人は照れ臭いのか、手を頭の後ろにやって髪を触っていた。速人は一年の頃からずっと一位を取っているので、先生から一目置かれている。


 ついに駈の番になり、重い腰を上げて向かう。特に担任からの言葉はなく静かに受け取り、自分の席に戻る。


「駈ーどうだったんよ」


「別にいつも通りだよ。煽りか?」


 ウザ絡みしてくる速人を適当にあしらい、駈はそのまま式に座った。その時机に置いた考査結果を速人に取られ、見られた。


「うわー相変わらず数学満点か、すげーな」


「まあ数学だけはな、速人はどうだったんだよ」


「ん? 満点!」


 自慢げに考査結果を見せてくる速人に大きく息をついた。

 その結果が気になり見てみると、ほとんどが満点で90点以下がなかった。


「相変わらずすごいな……」


「それほどでも」


 まんざらでもない表情をする速人に多少イラつきながらも流した。


「よし、これで全員だな」


 全員に考査結果が渡ったのか、担任が仕切り始めた。


「じゃあ明日から夏休みだけど、羽目外すなよー。あと今回の考査で赤点取った科目があるやつは来週から補習だ。該当者は七月中休みがないと思えよー。じゃあ号令」


 学級代表が号令を行うと担任は教室から出ていった。


 一瞬静まり返った教室は元通りになり、それぞれの話で盛り上がっていた。


 明日から夏休み。

 今年はいつもと違う。


 どこかそわそわした気持ちのまま、駈は教室を後にした。


次の話から夏休みに突入します。

どうなるんでしょうか。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


お読みいただき、ありがとうございます。

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