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丘の上で結わう花  作者: pan
第1章 退屈な日常が、変わる
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第14話 最近仲良くなった子

 小春結花(こはる ゆいか)には最近学校で仲良くなった女の子がいる。


「あ、こはるーん! お昼一緒に食べよー!」


 三橋早苗(みつはし さなえ)は離れた席から手を振りながら声をかけてきた。早苗はいつも明るく自由奔放に振る舞い、まわりの人を退屈させない。そんなこの子が最近仲良くなった女の子である。


「食べる―!」


 結花は返事をしながら持ってきていた弁当を片手に早苗たちのいる席へ向かった。昼休みになると一緒にご飯を食べながら駄弁っていることが多い。


「いやー昨日お(にい)がさー」


「あ、出た。早苗のお兄さんトーク」


 結花が近くの椅子を借りて座るところで早苗が話を始めた。その話題のほとんどは早苗のお兄さんのことである。


「まー聞いてよー。昨日めっちゃ説教されたんだよねー……」


 早苗は表情を曇らせながら(うつむ)き気味に言った。しかしすぐに顔を上げて言葉を続ける。


「部屋の掃除は自分でしろーとか、お金は返せよとか……ケチ過ぎん?」


「いやいや、早苗はお兄さんを頼りすぎ!」


「えーお(にい)優しいんだもん、つい頼っちゃう」


 まわりは少し呆れ気味に笑っていたが、言われている当の本人は満足げな顔をしていた。兄のことが好きすぎるあまり怒られても反省はしていないようだった。


「そういやみんなはお(にい)のことどう思う!?」


「どうって……第一印象?」


「そそ!!」


 早苗は兄の評価が気になっているのか目を輝かせながら質問の答えを待っていた。


「んー地味?」


「あー確かに! 陰キャって感じ!」


「ちょっとーお(にい)のことあんま悪く言わないでよー」


「聞いてきたのは早苗じゃんかー」


 それぞれの答えを聞いた早苗は頬を膨らませながら口をとがらせて言ったそばから鋭いツッコミが飛んできた。それに早苗は照れ笑いをし、場を和ませていた。


 仲良くなってからこのように笑うことが増えた。それも結花にはある秘密があるからで――


「こはるんはお(にい)のこと、どう思った!?」


 突然前のめりになり聞いてきた早苗に驚き、咄嗟に腰に手を当てた。


 結花は妖狐の末裔で、感情が高ぶってしまうと耳や尻尾が生えてくる。特に尻尾は出てきやすく、今もそれを抑えるために手で止めていた。


「あーまたお尻隠してる!」


「もう! あんまりからかわないで!」


 早苗にからかわれる結花の顔は赤くなっていた。時々早苗は結花のことを驚かしては、その反応を維持ていた。


(三橋さんの印象か……)


 笑っている友人をよそに、落ち着きを取り戻した結花は考えていた。


 早苗の言っている兄は三橋駈(みつはし かける)のことで、結花はすでに数回会っている。初めて会った日のことを思い出しながら頬杖をついていた。


「んで、お(にい)のことどう思ったよー」


「……優しい、かな」


「さっすがこはるん! わかってるー!」


 結花の駈に対する印象を聞いた早苗は歓喜していた。実際初めて会った日から「優しい」という印象で、嘘はついていない。


「あースマホ取りに行ったとき、先に見つけてくれてたんだっけ」


「そ、そう! だから優しいお兄さんだなって」


 結花のどこか焦っている様子を感じ取ったのか、早苗は目を細めて結花を見ていた。早苗は昨日から疑問に思っていたある事を聞いた。


「やっぱお(にい)となんかあった? 変なことされてない?」


「え、なんもないよ! ほんとに!」


「昨日お(にい)にも聞いたけど同じこと言ってたよ……」


 早苗は呆れたのか息をつきながら首をがくっとさせた。


 駈は早苗に結花との関係がバレたくないらしく、秘密にしてほしいと言われている。理由は面倒くさいことになるからと言っているが、最近早苗を知った結花にはわかるような気がしていた。


 とにかく『秘密』がバレないように話題を変えようと強引に切り出した。


「でもほんと良いお兄さんだよね! 早苗ちゃんに優しくて!」


「ねーそう思うでしょ! お(にい)は私にデレデレなんだよー」


 自慢げになって話す早苗を見ながら、結花は安堵の表情をしていた。


 なんだかんだ言って早苗は優しい。仲良くなったきっかけだって早苗だ。

 過去を気にしていた結花は人と仲良くすることに抵抗があって自分から話しかけることがほとんどなった。早苗はいつも一人でいる結花のことが気になり声をかけた。この些細(ささい)なきっかけで今がある。


 その優しさをいつの間にか駈と照らし合わせていた。


(……兄妹(きょうだい)似た者同士なんだな)


 結花は心の中でそう呟いた。


「おーい、こはるーん?」


「……何!?」


「いや、急にぼーっとしたからどしたのかなって」


「……ううん、なんもないよ!」


「ならいいけどねー。それでお(にい)がさ――」


 結花は慌てて首を振りながらも、早苗は一切気にせず話を再開させる。いつも通賑やかに過ごす友人たちに、結花は笑顔になりながら昼休みを過ごした。


 小春結花の日常は少しずつ、確かに変わっていった。

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[一言] 辛口のカレーを食べながら辛口の説教 とても辛(つら)いなぁと変な感想を覚えた 廃音です(笑) m(__)m
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