第11話 突然の訪問者
「おーい駈さーん、昨日のこれどういうこと?」
速人は駈との会話履歴を見せつけながら疑問に思っていることを聞いてきた。
「結花ちゃんにサプライズ的なことしたいのか?」
「そういうんじゃなくて、ただ気になっただけだよ!」
事あるごとに結花の名前を出してくる速人に駈は顔を真っ赤にして返した。
今日も速人の家で勉強会を開いている。しかし勉強はちゃんとしているのだが、その合間に駈をからかう速人と彩夏には別の目的があるように思える。
「あーそうなの? どんなことで驚くのか、かあ」
速人は駈の言葉を意外にもすんなり受け止めていた。
「状況にもよるけど、不意を突かれたときとか? 例えば後ろから急に声を掛けられるとか」
「あとはギャップとか! 普段は落ち着いているのに実は……みたいな!!」
駈は二人の回答を真面目な顔をして聞いていた。確かに驚くのは油断している時とか意外な一面を見た時ばかりだ。駈が納得するように首を縦に振りながら相槌を打っていた。
「確かにギャップはあるなー、駈が女の子と連絡先交換したって聞いた時はびっくりしたし」
「それはギャップなのか……?」
「そうだぞ。女の子と関わりなさそうなのに交換してるんだし、そりゃ驚く」
「まあ確かに……」
駈は速人の言葉を聞いて、どこか引っ掛かりを感じながらも腑に落ちていた。
◇◇◇
速人たちのアドバイスを参考に驚かせ方を考えながら帰路についていた。
ギャップと言われてもふざけたことは自分に似合わなくてやりずらいし、かと言って普通に驚かせたとしてもこの前と同じになってしまうし……
駈は試行錯誤を繰り返すも、明確な答えが出ずに振り出しに戻っていた。頬杖を突きながら考えていると突然スマホが振動した。
『お兄! 今友達が家に遊びに来てて、飲み物とかお菓子足りないから買ってきて!』
メッセージの送り主は早苗で、どうやら家に友達が遊びに来ているらしい。
早苗は昔から友達が多いのか、よく家に呼んで遊んでいた。その度に駈はパシリのようなことをされていた。今日はたまたま帰宅の途中だったので『了解』とだけ送っておいた。お金は後で返してもらおう……
『あ、今金欠だから奢りでオナシャス!』
猫がお辞儀をしているスタンプと共に送られてきた文章を見て、駈は思わず顔をしかめた。そのままスマホの画面を暗させポケットにしまった。
近所のスーパーで飲み物やお菓子を買い、今度こそ帰ろうと思ったところで不意にスマホが気になった。
(今日あの子から連絡来ないな……)
そう思った駈は逐一スマホを確認してしまう。マナーモードにしているためメッセージが来たら振動が来るので確認する必要はないはずなのに。それでも気になって画面を明るくしては暗くを繰り返している。
(いやいや! 毎日連絡来るわけもないし、期待しすぎだ!)
ふと我に返り勢いよく首を振りながらスマホをポケットにしまった。恥ずかしい気持ちを誤魔化すように足早に家に向かいながら、どこか寂しさを感じていた。
玄関の扉を開けると、早苗が履いている靴の他に幾つかあった。すると扉を開ける音に気付いたのか二階から早苗が階段を駆け下りてきた。
「お兄、おかえりーー!! 飲み物とかありがと!!」
「ただいま。お、おい気をつけろよ!」
駈が持っていたビニール袋を奪うように引っ張る早苗に心配そうな表情になり言葉をかけた。その声を気にも留めず勢いよく足音を激しく立てながら駆け上がっていった。
その様子を見た駈は息をつき、自室に向かった。
駈の部屋と早苗の部屋は隣り合っているため、そこそこ大きい声だと容易に聞こえてくる。
『あ、コップ忘れた! 持ってくる!』
早苗の声が聞こえたと同時に隣から勢いよく開く扉の音が聞こえた。階段に向かっていると思っていたが、急に駈の扉が開いた。
「お兄、どうせ下行くしょ? ついでにコップ持ってきてきんない?」
「へいへい」
「あざっす!!」
早苗は軽くお辞儀したと思ったら勢いよく扉を閉め戻っていった。
(下に行くけど、上に戻る用事はないんだけど……パシリかよ)
そう思いながら部屋着に着替え、部屋を後にした。リビングに戻り、来客用のコップをトレイの上に乗せていたところでスマホが振動した。急いで手に持っていたものを置き確認した。
『あ、お菓子入れるお皿もお願い!』
送り主はまた早苗で、少し呆れていた。ここまできたら自分で取りに来いよと思ったが、お人好しな駈は渋々受け入れ、スマホを確認するために置いたトレイにお皿を追加してリビングを出た。
駈は腹立たしく思っているのか顔を険しくさせながら階段を上っていた。しかし早苗の友人がいる前でそんな顔をできるわけがないので、何とか落ち着こうと深呼吸をした。
「おーい早苗、入るぞー」
「ほいよー」
駈は早苗のふざけた返事を聞いて一瞬眉をぴくりと動かしそうになったが何とか抑えた。
もうさっさと渡して勉強しようと思いながら扉を開けると、楽しく談笑している中に見知った顔があった。
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