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第1章 95 力の限界

 紫色の濃い毒霧の中を手探りで歩き…私はようやく1軒の家を見つけた。


「どうか、鍵が開いていますように……」


祈るような気持ちでノブに手を触れて、回してみた。


カチャ…


「!ノブが回るわ…。良かった、鍵はかかっていないようね」


キィィィ〜…


軋んだ音を立てながら扉を開き、恐る恐る家の中へと入った。


「失礼します…」


家の中までは毒霧は入って来ていないようだった。

この家の住民は余程急いで逃げたのだろうか?

テーブルや椅子、食器棚と言ったありとあらゆる家財道具が一切残されたままの状態になっていた。


「人の気配はないようね…」


扉を閉め、内鍵を掛けるとギシギシ鳴る床板を踏みしめながらテーブルに向かった。


肩からメッセンジャーバッグを下ろし、中から【聖水】作りの為の小道具を取り出していく。


「この毒霧では家の中を覗くのは不可能よね」


錬金術を使っている姿を誰にも見られるわけにはいかない。


「そうだわ。ついでにこの家の中から【聖水】をいれる入れ物を借りましょう」


室内から壺や花瓶といった入れ物になりそうなものを探し出すと、いよいよ【聖水】作りを始めることにした。


「今回は…沢山【聖水】を用意する必要がありそうね…時間が惜しいわ。すぐに始めないと…」


そして私は羊皮紙を取り出すと、【聖水】を作るた為の術式が組み込まれた魔法陣を描き始めた――。




****


 あれからどのくらい時間が経過しただろうか…。


テーブルの上に並べられた全ての容器には【聖水】が満たされている。


「ふぅ…。これくらい作ればいいかしら……」


そして何気なく窓の外を見た。


「え?!もう夜なの?!」


霧に覆われながらも空の色が真っ暗になっているのがよく分かる。テーブルの上には炎が揺れるアルコールランプが置かれていた。


「私…無意識のうちに、ランプに火を灯していたのね」


『錬金術』はかなりの精神力を使う。

時に物によっては数日を費やすこともある。その歳、術師は時間の感覚が分からなくなってしまうのだ。


「まずいわね…。あれからどれくらい時間が経過したのかしら…」


そこまで口にした時、視界がグラリと揺れた。


「あ…っ」


思わずテーブルにしがみつき、倒れそうになったところをギリギリ耐えた。


「はぁ…はぁ…」


肩で息をしながら呼吸を整える。


いけない、大分体力が消耗している。とりあえず、錬金術の道具だけは人目に付かないようにしまわなければならない。


気力を振り絞り、全ての道具をバッグにしまうと肩から下げた。


「何か【聖水】を運べる台車みたいなものはないかしら…?」


本当は動くのも辛かったが、私は室内を探し…納戸から荷車を見つけた。


「これなら…運べそうね…」


荷車に出来上がった【聖水】を全て乗せてハンドルを握りしめると、私は家を後にした。



ハンドルにぶら下げたカンテラの明かりを頼りに霧に覆われた夜の村を歩き始めた。


「マンドレイクの畑はどこかしら…」



ふらつく足取りで荷車を引っ張って歩き始めたところで、激しいめまいが襲ってきた。


「う…」


駄目だ。

思っていた以上に体力が消耗しているようだ。


私はそのまま地面に崩れ落ち……意識を失ってしまった。


誰かがこちらに近づいてくる足音を聞きながら――。

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