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第1章 82 回帰前の『シセル』の記憶

 馬車はゆっくり走り始め、それまでは少し離れた距離を馬で走っていた兵士達なのに今はピッタリ馬車に並走するように走っている。


馬車の窓からは景色ではなく、今は兵士の顔が見える。

彼等は時折、チラチラとこちらを見ているのが落ち着かない。


「何だか、監視されているみたいで落ち着かないですね」


トマスが小声で話しかけてきた。


「ええ……そうね」


馬車の扉は閉じられているし、車輪の音で外の兵士たちに話し声は聞こえていないとは思うけれども、ついつい声が小声になってしまう。


「仕方ありません。本当に俺は監視されていますからね」


ユダはチラリと周囲を警戒しながら返事をする。


今、ユダは足かせをはめられ、両手首は一緒に縄で縛り上げられている。

完全に拘束された状態の彼は見るも哀れな姿だった。


「ユダ……私は貴方を信じるわ。何とか貴方の無実を晴らす方法を探してみるから、もう少しだけ待っていてくれるかしら?」


「クラウディア様……何故そこまでして…」


ユダは目を見開いて私を見た。


「だって、ユダは濡れ衣を着せられただけでしょう?そして、おそらく貴方の立場が悪くなってしまったのは……私が原因なのじゃないの?」


「……」


しかし、ユダは返事をしない。


「え?それはどういう意味ですか?」


まだ状況を余り把握していないトマスが尋ねてきた。


「つまり…私をよく思わない人達が…『エデル』にいるということよ。でもそれは当然のことよね……何しろ私は勝手に戦争を起こした『レノスト』王国の生き残りの姫なのだから。父が起こした戦争のせいで『クリーク』の町の人達も巻き添えになってしまったわけでしょう?」


「確かにそうですが、でもそれはクラウディア様のせいでは……」


その時、馬車と並走していた兵士が馬車の扉をノックすると注意してきた。


「話をするのはやめろ」


「わ、分かりました…」


トマスはおっかなびっくり返事をした。すると次に兵士は私に視線を移した。


「クラウディア様も……その事を肝に銘じておいて下さい」


「ええ、分かったわ」


私は頷くも、ユダは口を閉ざして返事をすることは無かった。


仕方がない……。


『シセル』に到着するまでは会話をするのは諦めたほうが良さそうだ。


第一、『シセル』に到着すればユダに注意を払っている余裕は無くなる。


回帰前……私は『エデル』の使者達に『シセル』に連れて行かれ、

そこで無数の『死』を目撃した。


『シセル』は…まさに『死せる』村と言っても過言では無かった。



 あのときは、『シセル』の村の様子を見る為だけに『エデル』の使者たちに連れて行かれたようなものだった。



『シセル』はあまりにも悲惨な状況下に置かれていた。


それは私達が命の危険を感じるほどに…。


村人たちは私達に助けを求めた。

けれども、そんな村人たちを見捨てて私は逃げてしまったのだ。


逃げた理由は…怖かったからだ。

このままここにいては自分の命が危ないと思ったから。だから私は『エデル』の使者達に命じて、すぐに『シセル』を出発させた。


その結果…程なくして、あの村は滅びてしまったのだ。


私は領民たちを見殺しにしたという汚名を着せられることになり、『エデル』に到着する頃には私を歓迎する人々は誰一人として存在しなかった。


アルベルトは私を省みることは一切なく、ある日突然現れた『聖なる巫女』カチュアと出会い、2人はあっという間に恋仲へと発展した。


嫉妬心から2人の仲を引き裂こうとした私は、何故か最終的に国を滅ぼす悪妻に仕立て上げられ……断頭台で命を散らすことになってしまった。


そして図らずとも回帰した3度目の人生。

今度は絶対に『シセル』の村を救わなくては。


この【聖水】を使って――。


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