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第1章 80 提案

 午後1時――


全員が目覚め、軽く非常食を食べ終えるとついに出発する準備が始められた。



「う~ん。馬車の中で休息は取っているのに、何故また眠ってしまったのかしら…?」


まだ少し眠そうな様子のリーシャが寝袋を畳みながら不思議そうに首をひねっていた。


「そうですよね?僕もそう思います。何故か急激に強い眠気に襲われて…気づけば眠りに就いていて、挙句に出発時間になっているのですから」


トマスも寝袋を畳みながらリーシャ同様に首をひねっている。


「きっと、疲れが取れていなかったからじゃないかしら?」


私の話にリーシャが尋ねて来た。


「クラウディア様はちゃんとお休みになられましたか?」


「ええ、休んだわ」


「それは良かったです。ここのところ、ずっとお疲れのようで心配だったのですよ」


リーシャが笑みを浮かべたその時、スヴェンがこちらにやってきた。


「姫さん、『エデル』の連中が打ち合わせを始めるみたいだ。皆でユダが監禁されている家に向かったようだぞ」


言われて見れば、確かに『エデル』の使者たちの姿が見えなかった。


「一体ユダさんはどうなるのでしょうか…」


ユダを信用しているトマスは心配そうだった。


「そうですよね…まさか、ここに置いていくなんて言い出すつもりではないでしょうか?」


リーシャが不安気に私に声を掛けてきた。


「まさか…絶対にそんなことはさせないわ。その為にも今からスヴェンと説得に行ってくるわ。2人はここで待っていてくれる?」


「はい、分かりました。ですが…うまくいくでしょうか?」


「大丈夫よ、トマス。何とか説得してみるわ」


「クラウディア様。私もご一緒しましょうか?」


「平気よ、リーシャはいつでも出発出来る様に準備をしておいてくれる?」


リーシャに返事をすると、次はスヴェンに声を掛けた。


「それじゃ行きましょう、スヴェン」


「ああ。行こう」


そして私とスヴェンはユダが監禁されている家へと向かった。




****



「クラウディア様…またこちらへいらしたのですか?」


家の前にやってくると、扉の前に立っていた見張りの兵士がうんざりした顔で私を見た。


「おいおい、そんな言い方は無いだろう?仮にも姫さんはあんたの国の国王に嫁ぐお方なんだろう?」


「う…」


どうもその言葉を出されると彼らは弱いらしい。


「わ、分かりました。では…どうぞお入り下さい」


兵士は渋々扉を開けてくれた。



ガチャ…



扉を開けて薄暗い室内に入ると、見張りを除いた全員が集まっていた。

彼等は部屋の中央に置かれたテーブルに向かい合わせに座るように着席していた。


そして窓の下には相変わらず足枷をはめられて床の上に座っているユダの姿もある。


「クラウディア様…またこちらにいらしたのですね…。御覧の通り、今は大事な話し合いの最中なのですよ?どうぞお引き取りください」


正面扉の丁度真正面に座っているヤコブがため息交じりに私に声を掛けてきた。


「ええ、だから来たのよ。何故こんなところで話し合いをするの?『シセル』の村まではあと少しで到着するはずでしょう?早く出発しましょう」


「だから話し合いをしているんじゃないですか。これからユダをどうすればいいのかをね」


不機嫌そうにライが答える。


「……」


ユダは何を考えているのか、無表情で話を聞いている。チラリとユダを一瞬見ると視線が合った。けれども何故か目をそらされてしまった。


「クラウディア様、ユダは我らを危険な目に遭わせようとしたのですよ?それにまだ旅は続きます。だからこそ今ここで話し合いが必要なのです。ユダの処遇について」


ヤコブがため息交じりに口を開いた。


「ユダの処遇なら『エデル』に着いてからアルベルト様の判断にお任せするべきではないのかしら?仮にもユダは王命でリーダーに選ばれたのでしょう?」



「ですが、旅の間のユダの監視はどうするのですか?」


「今は足枷をはめているからユダは逃げられませんが、馬に乗るときは足枷を外さなければ乗れませんよ?」


「そうですよ。奴が馬に乗って逃亡したら追いかけられませんよ」


「だから今話し合いをしているんじゃないですか」


兵士たちが次々と訴えてきた。するとすかさずスヴェンが手を挙げた。


「俺にいい考えがある。ユダを足枷をはめたまま、姫様たちと同じ馬車に乗せるんだよ。どうせ旅の最中は姫様たちを乗せた馬車を囲むようにして移動しているんだから監視されてるも同然だろう?どうだ?いい案だと思わないか?」


スヴェンの言葉に、流石のユダも目を見開いた。


「何だって!ユダをクラウディア様と同じ馬車に?!」


「仮にも兵士が王女様と同じ馬車に乗るなんて…!」


再びざわめきが大きくなったが、私は構わず、頷いた。


「あら、それはいい考えね?だったら『シセル』に到着するまでの間はユダに私と同じ馬車に乗って貰いましょう?」


私はにっこり笑みを浮かべた。



そう、『シセル』の村までユダの身の安全が図れればそれでいい。


その後のことは…。また新たに考えればいいのだから――。






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