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第1章 74 ユダの嫌疑 4

「ユダ……」


私はどんな言葉を掛ければよいか思いつけず、言葉を切るとユダの方から話しかけてきた。


「クラウディア様」


「何?」


「食事を運んできて下さったのですよね?ありがとうございます」


「え、ええ…そうよ」


するとユダが申し訳なさそうに頭を下げた。


「この通り足枷をはめられているので自分で移動することが出来ないのです。申し訳ありませんが、ここまで持ってきて頂けないでしょうか?」


「ええ、いいわ」


スープを持って近付くと、床の上に座り込んでいるユダの前に置いた。


「両手は自由だから……食べられるわよね?」


「はい、大丈夫です」


ユダは器を手に取ると、匂いを嗅いだ。


「美味しそうだ…クラウディア様が作ったのですか?」


「ええ、そうよ。冷めないうちに食べて?」


「はい、いただきます」


ユダがスープを食べ始めるのを見ながら、私は近くの椅子に座った。

少しの間、部屋の中はユダが食事をする音だけが聞こえていた。




やがて…。


「…ご馳走様でした。とても美味しかったです」


ユダが食べ終えた器を床の上に置いたので、早速尋ねることにした。


「ユダ、いくつか尋ねたいことがあるのだけど…教えてくれる?」


「ええ、勿論です。クラウディア様の質問には何でも正直にお答えしますよ」


正直に…その部分には力が込められているように感じた。


「そう、それならまずは匂い袋のことについてだけど‥…」


「ああ、あれですか?アイツらは皆、あの匂い袋が危険生物を引き寄せたと言ってるんですよね?それで配った俺が疑われているんですよね?」


「ええ」


「アイツ等は皆俺が用意したと思っているんですよ。いくら違うと言っても誰も信用はしてくれませんでしたがね」


ユダはそこで一旦言葉を切った。


「今回クラウディア様のお迎えに当たり、俺がリーダーとして抜擢されたんですよ。兵士の中でも今回の戦争で手柄を立てたということで褒章として上等兵に階級が上がったからです。きっと連中はそれが気に入らなかったのだと思います。俺を何とか貶めようとしたのでしょう。大体危険生物を引き寄せる匂い袋を用意しても俺にとっては良い利点は何一つありません。ましてや、俺はリーダーとしてクラウディア様を無事に『エデル』に送り届けるという使命があるのに」


「でも貴方は私に言ったわよね?『クリーク』の町で、私を逃がそうとしていたでしょう?あれは何故なの?」


「それは…。考えが変わったからです」


ユダはどこか苦し気に眉をひそめた。


「変わった…?」


「本当は、このような事を申し上げて良いのか分かりませんが…クラウディア様の『エデル』での評判はとても悪かった。悪女として名高かったのです…」


ユダは申し訳なさげに首を垂れた。


「別に気にすることは無いわ。事実だもの。自分が世間でどんな風に言われていたかくらい知っているわ」


「ひょっとすると『エデル』に嫁いでくれば、クラウディア様は冷遇されてしまうかもしれない」


「そうね。それはあるかもしれないわね」


「だから、あの時俺はクラウディア様を逃がそうと思ったのです。これ以上…貴女が苦労する姿を見たくは無かったので」


「ありがとう、ユダ。そこまで心配してくれて、嬉しいわ」


「いえ。一緒に旅を続けているうちにクラウディア様が噂の悪女とは程遠いお方だということがよく分かりましたから」


「そうなのね…」


噂の悪女…。


一体どんな噂があったのだろう?少し気にはなったが、私には他に聞くべきことがあった。


「それでは、もう一つ教えてくれる?」


「はい、どうぞ」


「何故、貴方だけ銀の剣を持って行ったの?他の人達はアンデッドが現れるのを知っていたからじゃないかと思っているみたいだけど」


「銀の剣は高級です。俺も今までは持っていませんでした。しかし階級が上がり、今回の出立前にあの剣を報酬として受け取ったのです。それでついでに装備してきただけです」


「そうなのね…」


話を聞けば聞くほど、ユダの行動が裏目に出てしまっている気がする。


「今回の件で先程この部屋で俺を除いた一方的な話し合いが行われました。そこで俺はリーダーを降ろされ、代わりにヤコブがリーダーになりました」


「え?そう…だったの?」


そう言えば、足枷をはめたのは自分だとヤコブが言っていた。


「あいつなら…立派にリーダーを務めるでしょう。俺はこれから監視下に置かれるので、もうこんな風にクラウディア様とお話しできることも無くなるでしょう」


ユダの言葉には諦めが滲んでいるように聞こえた。


「ユダ、貴方はそれでもいいの?貴方は何も悪いことはしていないのよね?それなのにこの状況を受け入れるの?」


「仕方ありませんよ。アイツらは全員俺を疑っていますから」


「ユダ…」


その時。


扉が開く音が聞こえ、ヤコブが声を掛けてきた。


「クラウディア様。そろそろ行きましょう」


「え、ええ…」


私はユダが食べ終えた器を手に取ると立ち上がった。


「話を聞いてくれてありがとうございます。クラウディア様」


「ユダ。正直に話を聞かせてくれてありがとう」


そして私はヤコブが待つ扉へ向かった。


胸にある疑惑を抱えながら――。



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