第1章 73 ユダの嫌疑 3
「それでは行ってくるわ」
木の器に温めたスープを持った私にヤコブが尋ねてきた。
「クラウディア様、本当にお1人でユダに会うつもりですか」
「ええ。その方がユダだって話しやすいでしょう?」
「しかし…」
するとスヴェンが声を掛けてきた。
「別にいいじゃないか。姫さんの好きなようにさせてやれよ」
「何だと?!部外者は黙っていろっ!」
ライが声を荒らげた。
「私達は部外者ではありませんっ!」
…あろうことか、驚いたことにリーシャが口を挟んできた。
「リーシャ…」
思わずリーシャの顔を見た。
「いいですか?クラウディア様は『エデル』の国王に嫁ぐ方ですよ?あなた方の主君の妻になる方なのに、部外者は無いでしょう?!」
「確かに…言われてみればそうかもしれませね…」
リーシャの言葉にヤコブが頷いた。
「申し訳ございません、クラウディア様。それでは、どうぞユダに食事を届けて下さい。その代わり、外に見張りは立たせておきます。ご了承下さい」
「ええ。それで構わないわ」
そして私はヤコブに連れられて、ユダが監禁されている家へ向った。
ヤコブと並んで歩きながら私はどうしても疑問に思っていたことを尋ねようと思った。
「さっきの話で聞きたいことがあるのだけど…」
「はい、何でしょうか?」
「ユダに足かせをはめていると言ったけれど…どうして貴方がそんな物を持っているの?」
「戦場で兵士として戦っていた時の名残でつい、持ってきてしまっただけです」
「戦場で…?」
「ええ。時には敵国の兵士を捕虜として捕らえることもありましたから」
「そうだったの…?」
「はい、そうです」
私にはにわかにヤコブの話が信じられなかったが、それ以上追求するのはやめた。何より、ユダが監禁されている家に到着したからでもあった。
扉の前には兵士が1人見張りとして立っており、私達を見ると声を掛けてきた。
「どうしたんだ?ヤコブ。クラウディア様を連れて来るなんて。ん?スープ…?」
「ああ、クラウディア様が我らの為に食事を用意してくださったんだ。見張りを変わるからお前も食べに行くといい」
「分かった。なら鍵を渡しておくよ」
兵士は鍵をヤコブに渡すと、次に私にお礼を述べてきた
「どうもありがとうございます、クラウディア様。食事、頂いて来ます」
兵士は頭を下げると立ち去って行った。
「それでは扉を開けますが…宜しいですか?」
扉には錠前の鍵が掛けられている。
…まさか、鍵まで持ち歩いていたのだろうか?
微かな疑問をいだきながら頷いた。
「ええ、お願い」
頷くと、ヤコブは鍵を開けて扉を開くと私に言った。
「では、俺は扉の外で見張りをしていますから。ユダに食事をお願いします」
「分かったわ」
バタン…
私が家の中に入ると、扉はすぐに閉ざされた。
部屋の中はテーブルや椅子の他に床の上には家具などが乱雑に置かれ、ユダの姿が見当たらない。
ギシッ…
1歩踏み出した時、床板が鳴った。
「誰だ…?」
前方で警戒するようなユダの声が聞こえた。
「私よ…ユダ」
「え?クラウディア様っ?!」
「ええ。そうよ。貴方に食事を届けに来たの。どこにいるの?」
「ここです。テーブルの近くです」
ユダに言われて近づいてみると、そこには足枷をはめられて床の上に座っているユダの姿があった―。




