表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/380

第1章 58 驚くべき言葉

 月明かりに照らされた部屋の中は家具が一切置かれていなかった。


「ユダ。私…貴方に聞きたいことがあるの」


大きな窓の方を向いているユダの背中に語りかけた。


「クラウディア様…」


ユダは私の方を振り返った。

彼は窓から見える月を背に、じっと私を見つめると口を開いた。


「まずはその前に…ご報告させて下さい」


「報告…?」


「はい、我らの仲間の内…1人が消えました」


「消えた…?」


「はい。あの後、クラウディア様の部屋に集まってこなかった仲間の点呼確認の為に各部屋を訪ねたのです。そして1人、部屋の中がもぬけの殻でした」


「それでは…その人物が…?」


「はい。クラウディア様を襲った人物で間違いないでしょう」


「彼は…一体何者なの?」


「あの人物はホセと言う者で、戦争が始まってすぐに『エデル』の兵士になった人物です。本人の話ではそれまでは傭兵の仕事をしていたそうです」


「傭兵…」


「あまり我らと話すこともありませんでしたが…少しだけ小耳に挟んだ話があります。どうやらホセは金に困っていたそうです」


「あ…」


その時、覆面男の台詞を思い出した。


『【エリクサー】をどこにやったかって聞いてるんだよ』


「どうかしましたか?クラウディア様」


「あの覆面男…【エリクサー】を探していたわ。私が持っていると思っていたようね」


「何ですって?【エリクサー】を探していたのですか?」


「ええ。そうよ。それでは…ひょっとして彼が…私をずっと見張っていた人物なの?」


「…」


ユダは少しの間考え込む素振りをしていたが、やがて口を開いた。


「恐らく…彼は違うと思います」


「え…?どうして?」


何故、そんな風に言い切れるのだろう?


「本来、ホセはクラウディア様の同行者のメンバーではありませんでした。我らが選抜された後に自分の方から仲間に加えてくれと言ってきたのです。理由を尋ねても、単に敗戦国の様子が気になるからだと言って詳しくは話してくれませんでしたが…どうやら借金取りから逃げ回っていたみたいです」


「そうなの?」


「はい、当時はそんな事情があるとは我々は知りませんでした。しかし、もともとクラウディア様を迎えに行くには心もとない人数だと思っていたので…全員で話し合いの末、彼を仲間に加えることにしました。恐らくホセは【エリクサー】を狙っていたのでしょうね。金儲けの為に」


「…」


私は黙ってユダの話を聞いていた。


「俺とヤコブの見解は違います。恐らくクラウディア様や…我々を監視しているのはホセではない」


「それでは、ユダには…誰が怪しいか見当はついているの?」


「そうですね…クラウディア様の部屋からの騒ぎが聞こえても出て来なかった者達は全員怪しいと考えています。ですが…」


ユダは声を潜めた。


「俺としては今のところ…ヤコブしか信用出来ません」


「え…?」


「俺とヤコブは数年来の友人ですが、残りのメンバーは今回初めて見る顔ぶればかりでしたから」


「そうなのね…」


私はユダを信じる気持ちと疑っている気持ちで激しく葛藤していた。


先ほど廊下で聞こえてきたユダが発した言葉の意味を知りたいのに…何故か聞くのがためらわれてしまう。



その時―。


「クラウディア様」


不意にユダが私の名を呼んだ。


「何?」


「クラウディア様が…先ほど、あの男に腕を掴まれている姿を見た時は…とても驚きました。でも…無事で本当に良かった。貴女にもしものことがあれば俺は…」


ユダの顔が苦し気に歪む。


「そうよね?私を護衛する任務を負っているのだもの…心配するのは当然よね?」


だから、貴方は私の敵では無いわよね?

その意味合いを込めて、私は笑みを浮かべてユダを見た。


「いいえ、そうではありません!俺は…」


珍しくユダが感情を露わにした。


「どうしたの?ユダ」


ユダは一瞬俯き…やがて意を決したかのように顔を上げた。


「クラウディア様。次の村『シセル』は…本当に危険な村です。俺はあの村へ貴方をお連れするのは反対です。もし…もしクラウディア様があの村へ行くのを躊躇っておられるのなら…

いえ、人質妻として『エデル』に嫁ぐのが嫌なら…俺が貴女を逃がして差し上げましょうか…?」



ユダは驚くべきことを口にした。


彼が私を見る瞳は…真剣そのものだった―。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白いです。 現代日本に転生して、更に元の世界に戻ってくるという展開が珍しくて面白いです。 王妃になってからの生き残りに向けてのストーリーも楽しみですが、私の中でユダの好感度が上がっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ