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第1章 50 村の噂話

 階下に降りていくと、大勢の賑やかな声が廊下から聞こえてきた。


「随分賑やかね…大勢人が集まっているのかしら?」


食堂に近付いてくるに連れ、益々声が大きくなる。


「あ、あそこかしら?」


前方には木の扉が大きく開け放たれている部屋があり、賑やかな声はその部屋から聞こえていた。


扉を覗き込んだその時―。


「あ!王女様だっ!王女様がいらっしゃったぞっ!」


1人の若者が私に気付いたのか、立ち上がって声を上げた。その人物は一番初めに命が救われたサムだった。


「王女様だっ!」

「いらして下さったのね?!」

「お待ちしておりました!」


人々の視線は一斉に私に注がれる。


「王女様!どうぞ中にお入り下さい!」


サムの隣りに座っていたのはトマスで、私に声を掛けてきた。


「え、ええ…それではお邪魔するわ」


大勢の人々に見守られながら、緊張の面持ちで食堂の中へ足を踏み入れた。


「姫さん!こっちに来いよ!」


スヴェンが笑顔で手を振って私を呼ぶ。

彼の隣にはリーシャが笑いながら私を見ている。


リーシャ…。

そんな姿を見ていると、本当に彼女は私を裏切ろうとしているとは思えなかった。



「ええ、今行くわ」


でも、やはり用心しなくてはいけない。

私は2人が待つテーブル席へ向った―。





私が着席するとすぐに町長さんが立ち上がり、こちらを振り向いた。


「王女様、この度は王女様のお陰で我々の町は救われました。ささやかではありますが感謝の意を込めて、食事の席を設けさせて頂きました。どうぞお召し上がり下さい」


食堂の中には3つに長テーブルが置かれ、豪華な料理がズラリと並べられ、ワインが置かれている。


「皆様、お手元のワインをお取り下さい」


町長が皆に声を掛け、私達はその言葉に従ってワインを手にした。


「それでは我らを救っていただいた王女様と連れの御一行様に感謝と、旅の無事を祈って…乾杯!」


『乾杯!』


町長の言葉の後に、人々は乾杯の声を上げ…賑やかな食事会が始まった―。




「クラウディア様、ここの食事…とっても美味しいですね」


リーシャが嬉しそうに声を掛けてきた。


「ええ、そうね」


「料理だけじゃない。ワインも美味しいぞ」


スヴェンは余程ワインが好きなのだろう。既に彼はワインを1瓶空けていた。


「このワインは隣の村『シセル』で作られたワインです。あの村は土地が肥えていて、農業がとても盛んでしたからね…」


スヴェンの隣りに座っていた町長さんが会話に入ってきた。


「シセル…」


回帰前、『クリーク』の町の次に立ち寄った場所だ。恐らく予定通りであるならば…今回もその村に立ちるはずだ。


「でも、あの村は…もう駄目かもしれません…。戦争が始まってからは完全に交易が途絶えてしまいました。それに…一番『エデル』との国境に近い村なので、戦争被害を多く被ってしまったと聞いております…。もう『シセル』の村は滅んでしまったとの噂も聞こえてまいりますし…」


「なんてこった…」

「そんな…」


町長さんの話はスヴェンとリーシャにはかなりショックだったようだ。


町長さんは一旦、言葉を切ると私に頭を下げてきた。


「申し訳ございません、折角の賑やかな席で王女様とおつきの人々の前でこのような話をしてしまって…」


「いいえ、そんなことありません。『シセル』は大切な領民達の住む村ですから。教えて頂き、ありがとうございます」


私は町長さんにお礼を述べた。


「村の人達はどうなってしまったのかな…」

「皆さん無事だといいですね」


スヴェンとリーシャの会話を聞きながら、回帰前の事を思い出していた。


やはり、今回もあの村では同じことが起こっているのだ。


あの村はまだ滅んではいないけれども、着実に滅びの道を進んでいる。

前回は見捨ててしまったけれども、今回はもう二度とそのような愚かな真似はしない。


何故なら私が【賢者の石】を使って、『シセル』の村を救うのだから―。


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