第1章 43 裏切者?と新たな仲間
「ユダ…それって…私とリーシャを2人きりにさせない為に…?」
「ええ、勿論そうです。リーシャは怪しい…俺の目から見てもあまり彼女はメイドらしさを感じられません。それだけではありません。あのサムと言う男の傷に薬を塗って傷口が光り輝いた瞬間、リーシャは呟いたのです。『やっと見つけた』と」
「え…?」
その言葉を聞いた時、背筋に冷たいものが流れるのを感じた。
「その口ぶり…ひょっとするとリーシャはエリクサーを探していたってことになりますよね?」
トマスが同意をもとめるかのように私に尋ねてきた。
「え、ええ…そうよね…」
もうリーシャがエリクサーを探していたことを認めざるを得なかった。
ただ、今の段階ではリーシャが狙っているのはエリクサーだけなのか、それとも錬金術師を探しているのかは分からない。
単にエリクサーだけを探したかったから、私の持ち物を探そうとしていたのだろうか?
回帰前のリーシャは怪しいところは何も無かったのに…。
「クラウディア様」
不意にユダが話しかけてきた。
「何?」
「これで分かりましたね?リーシャが怪しいと言うことは。本来であれば、ここで彼女を置いていきたいくらいですが…」
「え?リーシャを置いていく?!」
そんな…っ!
しかし、ユダはため息をついた。
「だが、それも出来ない」
「ええ。そうですよね」
その言葉に頷くトマス。
「あ…?もしかして、リーシャが手に入れたいのがエリクサーだとすると、この町にあるのは分かり切っているから…?」
「その通りです。もし、ここにリーシャさんを置いて行けば…彼女は折角我らの為に王女様がくださった貴重なエリクサーを盗んでしまうかもしれない」
「だから、我々の旅に同行してもらうしかない。それに…」
ユダは私の目をじっと見つめた。
「もしかすると、リーシャは誰かの命令で動いていると言うこと…?」
「ええ、その通りです。何しろエリクサーは誰もが喉から手が出るほど欲しくてたまらない薬ですからね。彼女の背後には大きな組織が存在しているかもしれない」
「そうよね…脅迫されているかもしれないものね…?」
私はまだ心のどこかでリーシャを信じたかった。誰かに脅迫されていて、エリクサーを探すように命じられていたと…。
「…とにかく、途中でリーシャを捨てていく事は危険です。『エデル』に到着するまでは彼女を監視しながら旅を続けるしかないでしょう?」
「ええ、そこでたまたま私が『エデル』に行きたいとユダさんに頼んだところ、互いの利害が一致したのです。同じ馬車に乗れば常に彼女を監視することが出来ますよね?」
「え、ええ…そうね。それにトマスは立派な薬師になりたいのだものね?」
けれど、そうなると彼に預けたエリクサーの原液はどうすればいいのだろう…。
「はい、そうです。後のことは…全てルカに頼みました」
「ルカ…?」
「彼は信頼できる人物です。僕と同様、親を早くに亡くし、町長に育てられたんです。彼も薬師を目指し…人々の命を救える薬師になりたいと日頃から話しています。宜しいですよね?王女様」
トマスは真剣な表情でこちらを見ている。
ルカ…。
彼なら信用しても大丈夫だと思えた。
何故なら彼も…聖書で聞き覚えのある人物。
彼は、教養のある医者であったと伝えられているから。
「ええ、そうね…。ではルカに後のことはお願いするわ」
「はい、ありがとうございます!王女様!」
トマスは頭を下げてきた。
「よし、ではこれで決まりですね?今後は出来るだけリーシャと2人きりにならないように気を付けて下さい。持ち物にもです。何しろ彼女はクラウディア様のバッグに触れようとしていましたから」
「ええ、分かったわ」
返事をしたものの、私の中には何とも言い難いものが胸の中でくすぶっていた。
これからはあのリーシャを疑ってかからないといけないなんて…。
リーシャが探していたものはエリクサーなのだろうか?
それとも錬金術師なのだろうか…?
「大丈夫ですか?クラウディア様」
不意にユダが声を掛けてきた。
「え?ええ。大丈夫よ」
「我々の中にも敵が潜んでいますが…ご安心ください。必ず無事に『エデル』までお連れ致しますので。国王陛下がお待ちですから」
「ありがとう。ユダ」
アルベルト…。
本当に彼が私を待っているとは思えない。
でも、私はもう後戻りすることは出来ない。
何より、次に訪れる村の人たちを何としても救わなくてはならないのだから―。




