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第1章 42 2つの提案

「どうしたの?リーシャ。随分ご機嫌ね?」


私は今までと変わらぬ態度でリーシャに接することにした。

ユダはリーシャを怪しんでいるけれども、今の私には彼女を疑うべき存在かどうか判断できない。


何しろ…実際私の感覚では46年間彼女と離れていたことになるのだから。


「はい。町長さんがこの宿屋の裏に温泉があるって話していましたよね?なのでこれから一緒に行きませんか?湯浴みのお手伝い、させて頂きます」


よく見るとリーシャは右腕から布を被せたカゴを下げている。恐らくあの中にタオルや着替えが入っているのだろう。


「そうね…」


ここはリーシャと一緒に温泉に行くべきなのだろうか?少し躊躇していると、前方からトマスがこちらに向ってやってきた。


「クラウディア様、お疲れかもしれませんけど…少々お話したいことあるのですが宜しいでしょうか?」


そしてチラリと隣に立つリーシャを見た。


あ…もしや…。


「え…?でもこれから私はクラウディア様と温泉に行くのですけど。そうですよね?クラウディア様」


リーシャは私に同意を求めてくる。


「でもリーシャ。トマスだって徹夜明けで疲れているのに、わざわざ私に話が有って訪ねてくれたのだから、先に彼の話を聞くことにするわ。湯浴み位1人で出来るから、貴女は1人で先に行って?」


「え…ですが…私は…」


するとそこへ扉が開く音と共にユダが現れた。


「お前はクラウディア様のメイドなのだから、主の言うことを聞くのが当然だろう?」


「う…わ、分かりましたよ。何もそんなきつい目で睨まなくてもいいじゃないですか」


リーシャはよりにもよって、『エデル』の兵士であるユダに言い返してしまった。


「目つきの悪さは生まれつきだ。早く行って来い」


「言われなくても行きます。それではクラウディア様、申し訳ございませんがお先に温泉に行って参ります」


リーシャは頭を下げると、足早に立ち去っていった。



「ユダ…貴方、私の隣の部屋だったのね?」


リーシャが去った後、隣に立つユダに声を掛けた。


「ええ、そうです。…すみませんが、中に入っても宜しいですか?あまり廊下で話はしたくないので」


ユダは小声で尋ねてきた。


「ええ、でもトマスと話が…」


「僕にも関わる話なのでご一緒させて下さい」


「トマス…」


そのことでピンときた。


恐らく、トマスもリーシャの話をユダから聞かされているのだろうと…。


リーシャは旅の間、湯浴みをずっと望んでいた。

きっと彼女のことだ。当分宿屋に戻ってくることは無いだろう。


「ええ、分かったわ。中に入って」



私は2人を部屋の中に招き入れた。


「念の為に部屋の前には信頼する仲間を1人見張りに立たせておきます」


部屋に入るとユダが私の考えを察したのか、見張りについて語った。


「仲間…?もしかして村で一緒に馬車の様子を見に行った?」


「はい、彼の名前はヤコブと言います」


「ヤコブ…」


偶然だろうか?考えてみればトマスもヤコブも聖書の中のイエス・キリストの弟子として有名な人物だ。


「どうかしましたか?」


トマスが声を掛けてきた。


「いいえ、何でも無いわ。とりあえず2人とも座って?」


部屋に設置してある丸いテーブルセットを勧めた。



「「はい」」


そして私達は椅子に座ると、早速話を始めた。




「クラウディア様。町長とも話をしたのですが、『エデル』まで私もお供させて下さい」


席につくなり、トマスが驚くべき発言をした。


「え?トマス…突然どうしたの?」


「『エデル』の国には多くの薬師が住んでいます。トマスもまた薬師を目指して勉強中らしいです。そこでクラウディア様の旅に同行し、『エデル』で学びたいそうです」


ユダが説明してくれた。


「そうだったの…」


「はい、そうです。今回の件でいかに自分が無力な存在か思い知らされました。そこでもう一度新たに学び直したいと思ったのです」


トマスは真剣な眼差しを向けてくる。


「それは立派な考えね」


「そこで提案です。彼を…旅に同行させても宜しいでしょうか?」


ユダが尋ねてきた。


「ええ。私は勿論構わないわ」


何しろ、次に行く村では…1人でも信頼できる仲間と人手がいる。


あの村は色々と厄介な問題が起こっている村だから1人でも同行者が多いに越したことはない。


「では彼をクラウディア様の馬車に乗せて頂けますか?リーシャを監視してもらう為に」


「!」


ユダの言葉に私は思わず息を呑んだ―。


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