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終章 9

 ヨリックは旅の疲れのせいか、客室に用意されたベッドの上で眠っていた。


「アルベルト様、何故突然ヨリックを連れてきて下さったのですか?」


眠っているヨリックを見つめながら、隣に座るアルベルトに尋ねた。


「それは俺達の結婚式に参加させるためだ。いくら幼くても、ヨリックはお前の国の国王だ。この結婚は『エデル』と『レノスト』の同盟を結ぶ為の結婚でもあるのだから当然だろう?」


「え……?」


アルベルトの言葉に耳を疑う。


「アルベルト様、私の国は『エデル』の属国になったのではありませんか? そして私はもう二度とこの国に逆らわないために、人質としてこの国に嫁いできたのですよね?」


するとアルベルトは一瞬驚いたように目を見開いた。そして私の腕を掴んで自分の方へ引き寄せると強く抱きしめてきた。


「ア……アルベルト様……?」


「クラウディア、まだそんな事を言っているのか? 俺がクラウディアを妻に望んだのは、お前がこの国の『聖なる巫女』だからだ。そして何より……俺がずっとお前を好きだったからだ。それ以外にどんな理由があるっていうんだ?」


やっぱり、本当だったのだ。本気でアルベルトは私のことを……?


「だ、だったら何故……回帰前のときには……」


そこまで口にし、言葉を切った。

アルベルトも私同様、回帰してきたのだ。最後まで口にしなくても私が何を言いたいのかは分かるだろう。それにあのときの私は人の心も分からない悪女だった。これではアルベルトに愛想をつかされても当然だろう。


「分かってる……すまなかった」


アルベルトの私を抱きしめる腕に力がこもる。


「俺はいつの頃からか、徐々に宰相によって洗脳されていたのだ。多分、両親が亡くなる少し前からだったのかも知れない。宰相は狡猾な男だった。俺はクラウディアを憎み……お前はこの国に嫁ぐ旅路の間に悪女になるように洗脳されていたのだからな」


え……?

その言葉に耳を疑う。


「アルベルト様、回帰前の私はどうしようもない悪女ではなかったのですか……?」


すると、アルベルトは私の身体から離れて両肩に手を置いてきた。


「何だ? お前は俺と同様回帰してきたのに、以前の自分のことを覚えていないのか?」


「いいえ、覚えております。私は本当に酷い女でした。『エデル』に嫁ぐ道中、立ち寄った領地民たちを救うこともしなかったのですから。……私にはその力があったのに」


「それこそ、洗脳されたからだろう? 『レノスト』国に居た頃のお前の評判はとても良かった。自分の財産を貧しい国民達のために分け与えていた。だからヨリックだってこんなにもお前を慕っていたのだろう?」


アルベルトは眠っているヨリックをじっと見つめる。


「そんなことって……」


私はずっと洗脳されていたのだ。洗脳され、自分が悪女だと思い込んだまま……再びアルベルトによって回帰してきたのだ。


「俺もお前も、回帰前は、まんまとあの2人に洗脳されてしまったというわけさ」


私は黙ってアルベルトを見つめる。そう言えば、思い当たる節がある。何故か覚えのない光景が時折脳裏に浮かぶことがあった。

宰相達の前で錬金術を使おうとしている自分の姿が……。


「お前を処刑してしまったとき、何故か分からないが俺の洗脳が解けたんだ。きっと、愛するクラウディアの命を自らの手で奪ってしまったことがきっかけだったのかもしれないな。そしてこの世界を天変地異が襲った……それは本物の聖女を殺してしまった神の怒りだったのだろうな」


ポツリポツリと語るアルベルトはとても辛そうだった。


「だから、俺は……」


「もういいです、アルベルト様」


私はアルベルトを抱きしめた。


「クラウディア……」


「そこから先は、もう言わなくて良いです。全て知っていますから……」


「す……すまなかった……あ、あんな……残酷な殺し方をしてしまって……」


アルベルトが私を抱きしめ、身体を震わせている。そして私の肩に、熱いものが落ちてきた。


まさか……アルベルトは泣いている……?


「大丈夫です。仕方ないことだったのですから……」


「ク……ラウディア……」


まるで子供のように泣くアルベルト。私は彼が泣き止むまで、その身体を抱きしめるのだった――



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