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終章 1

「行ってしまったのね……」


ポツリと呟き、空を見上げた。

不気味な赤黒い空は、いつの間にか澄み渡った青空に戻っている。


「全て終わったのね」


だけど……私の胸中は、どうしようもない寂しさで一杯だった。

私は何処かで期待していた。

全てが終われば、元の世界に……日本に戻れるのではないかと思っていたのに。


「葵……倫……」


子供たちの名を呟いたその時。


「……クラウディア?」


「アルベルト様……」


背後で名前を呼ばれて振り向くと、石化が解けたアルベルトが目を見開いて私を見つめていた。


「クラウディア!」


互いの目があった次の瞬間、私は彼に抱きしめられていた。


「アルベルト様……石化の呪いが解けたのですね……?」


アルベルトの胸に顔を埋めると、彼の抱きしめる力が強くなる。


「ああ、お前のお陰だ。クラウディア、お前はこの国の希望であり……俺の光だ」


その言葉に顔を上げると、アルベルトの顔が近づいてくる。

私も目を閉じた、次の瞬間――


「陛下!」

「クラウディア様ー!!」

「ご無事で何よりです!!」


歓声を上げながら騎士たちがこちらに向かって駆け寄ってくる。


「チッ! タイミングの悪い……!」


舌打ちしながら私から離れるアルベルト。

その様子がおかしくて、つい笑ってしまう。


「わ、笑うな。……全く、お前はいつも余裕だな……」


アルベルトが顔を赤らめながら私を軽く睨みつける。


「も、申し訳ございません……で、でもおかしくて……」


肩を震わせながら笑いをこらえていると、騎士たちが私達の前に駆けつけてきた。


「陛下、ご無事で何よりです!」

「一体何が起こったのでしょう?」

「魔物と対峙したところまでは覚えているのですが……」


彼らは自分たちの身に起きた出来事を何も覚えていなかったのだ。


「クラウディア様!!」

「ご無事でしたか!!」


そこへ騎士たちをかきわけるようにユダとハインリヒが私の元に駆け寄ってきた。


「ユダ、ハインリヒ。良かった、石化が解けたのね?」



「クラウディア様……」


笑いかけるとユダの顔が一瞬泣きそうに歪み、私に近づいてくると手を伸ばし……


「やめろ! 陛下の御前だぞ!」


ハインリヒに制止される。


「そうだ。いくらクラウディアの護衛騎士とは言え、むやみに近付くな!」


アルベルトが私の肩を抱き寄せてきた。


「た、大変申し訳ございませんでした!! つい……安心のあまり……我を忘れていました! ど、どうかご無礼をお許しください!」


ユダはその場に跪き、謝罪する。アルベルトの前で哀れなほどに萎縮するユダを見ていると気の毒になってくる。


「アルベルト様、もう良いではありませか。それだけユダは私を心配してくれていたということなのですから」


「クラウディア……全く、お前は……仕方ない。許してやろう」


アルベルトがため息をつく。


「ユダ、陛下のお許しが出たわ。顔を上げて頂戴」


「はい……」


恐る恐る顔を上げるユダに安心させるために笑みを浮かべる。


「!」


すると途端にユダの顔が真っ赤になり、再びアルベルトが不機嫌になる。


「ユダ! 護衛騎士の分際でクラウディアをそんな目で見るな! クビにされたいのか!」


「も、申し訳ございません!」


「もう良いではありませんか! 騎士たちが皆呆れておりますよ!?」


慌ててアルベルトを止めた。

その時になり、騎士たちが呆気に取られた表情でこちらを見ていることに気付いたのか、彼の表情がこわばる。


「よ、よし! 全員無事だったようで何よりだ。とりあえず今は他の者たちが無事だったかを確認する必要がある! 一旦城に戻り城内の者たちの安否を確認しろ!」


『はい!!』


騎士たちが一斉に返事をし、神殿の外を目指して駆け出していく。勿論、その中にはユダとハインリヒの姿もある。


「クラウディア、俺たちも行こう。皆のことが心配だろう?」


アルベルトが手を差し伸べてきた。

彼に尋ねたいことは山ほどあるけれども……今は先にするべきことがある。


「はい、アルベルト様。皆のところへ行きましょう」


その言葉にアルベルトは頷き、私の手をしっかりと握りしめてきた――







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