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第1章 34 秘密の保有

「どうぞ、こちらの家をお使い下さい」


トマスによって連れてこられたのは野戦病院からほど近い、小さな1軒屋だった。


扉を開けて中に入ればテーブルセットも置いてあるし、ベッドもある。部屋の奥には炊事場もあった。


「ありがとう、ひょっとしてこの家は貴方の家なの?」


連れてきてもらったトマスに尋ねた。


「いいえ…ここはもう空家です。その…ここに住んでいた人物は…戦地で命を落としてしまいましたから…」


トマスは申し訳なさそうに説明した。


「そうだったの…」


何だか悪いことを聞いてしまった。


「あ!す、すみません!やっぱり…嫌ですよね?亡くなってしまった住民の家を使うって…何なら別の家を…」


「いいのよ、トマス。そんなこと考えていないから」


慌てるトマスに声を掛けた。


「ですが…」


「いいえ、そうではないの。ただ…この町の多くの人達が戦争で命を落としてしまったことが…今迄何もしてあげられなかったことが申し訳なくて…」


「王女様…ですが、今こうして我々の為にこの町に来て…不足していた医療品を届けてくれただけでなく、まさかあの幻の秘薬【エリクサー】まで用意していただいて…本当になんとお礼を申し上げればよいか分かりません。本当にありがとうございます」


トマスは再び頭を下げてきた。


「そんなことは気にしないで。だってこの町の人達は…大切な領民なのだから」


「王女様…」


「さて、それじゃ私はやることがあるから暫くの間1人にさせてもらうわね」


すると突然トマスが辺りをキョロキョロ見渡し…小声で言った。


「王女様は…これから【エリクサー】を作るのですよね?」


「えっ?!」


思わず驚いてトマスを見上げた。


「…僕には分かります。本当はあの薬を作られたのは王女様だということを。先程は申し訳ございませんでした。興奮のあまり…重大なことを忘れていました。錬金術師は…稀にない貴重な存在です。その力に目をつけ、錬金術師は狙われているという話も聞いたことがあります。それなのにうっかりして僕は大勢の前であんなことを言ってしまって…王女様を危うく危険に晒すところでした」


「トマス…」


トマスは悲しげな顔で続ける。


「僕の両親は腕の良い薬師でしたが…錬金術師ではありませんでした。幼い頃に流行病で両親は亡くなり、町長が僕の親代わりで育ててもらったんです。僕は万能薬を作れる錬金術師になりたかった…。けれどその力が僕には無かったんです」


「そうだった…の…?」


トマスは顔を上げると私を見た。


「錬金術の勉強はしました。今王女様が着ている服…麻のドレスですよね?錬金術を使うには出来るだけシンプルな服に着替えて錬金術を行うのが礼儀であり、儀式であるということを聞いたことがあります」


「…」


そこまで知られていては…もうこれ以上隠すことは出来なかった。


「ええ、そうよ。私は…」


「待って下さい!」


トマスは突然私を制した。


「トマス…?」


「王女様、それ以上言わないで下さい。錬金術師を狙う組織が世界中にあるという話を聞いたことがあります。何処で誰に話を聞かれるか分かったものではありません。なので…言わないで結構です」


「…分かったわ」


「では、僕は野戦病院に戻って怪我人の手当をしてきますね」


トマスは戸口へと向って行く。


「ええ、お願い」


そしてトマスは外へ出て…。


「うわっ!お、お前は…!」


突然トマスの驚きの声が上がった。


「どうしたのっ?!トマスッ!」


私は慌てて戸口へ向かい…息を呑んだ。


何と戸口を塞ぐように立っていたのはユダだったからである。


「ユダ…ど、どうして…貴方がここに…?」


彼は野戦病院で怪我人の手当にあたっていたはずなのに…。


私は彼を見上げた―。




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