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第2章 221 知らなかった過去

「覚えているか? クラウディア。ずっと昔……まだ子供の頃、俺がお前の国で僅かな時間暮らしていたことを」


「はい、勿論覚えています」


アルベルトの話に私は頷く。

そう、彼は五歳から六歳までの間……一年間人質として、『レノスト』国で暮らしていたのだ。

何故、大国の王子が『レノスト』国のような小国に人質となっていたのかは分からないが。


「クラウディア、今何故『レノスト』国のように小さな国が『エデル』の第一王子を人質にしたのか不思議に思っていただろう?」


まるで心の内を読んだかのようにアルベルトが尋ねてきた。


「え? え、ええ……そうですね」


「『レノスト』国は確かに小さな国ではあったが……決して弱小国というわけではなかったんだぞ? あの当時は本当に強い国家だったんだ。……何故か分かるか?」


「い、いいえ?」


何か理由があったのだろうか?


「一部の権力者達にしか知られていないが……『レノスト』国は代々優秀な錬金術師を排出してきた国なんだ」


「錬金……術師……」


その言葉にドキリとする。まさか……そんなことが知られていたなんて……


「あの当時、『レノスト』国には、今までに類を見ないほど優秀な錬金術を操る女性がいた。彼女の名前はヒルデガルト・シューマッハ。知っているだろう?」


「ヒルデガルト……」


知ってるも何も、その名は祖母の名だ。私は錬金術を祖母にならったのだから。


「女性の錬金術師というのは希少な存在だ。過去において『聖女』となった者達の中には錬金術師もいたのだ」


「そんな……」


それでは祖母は聖女だったのだろうか? だがそんな話は一度も聞いたことがない。


「本当はヒルデガルトは『エデル』の国王に嫁ぐはずだったんだ。代々聖女は聖地のある国に嫁ぐと決められていたからな。けれど、そうはならなかった。彼女は『レノスト』国の国王と恋仲だったからだ」


私は初めて聞く話にただ、息を呑んで黙って聞いていた。


「聖女の力は聖地である『エデル』に来ればこそ、より一層本来の力を発揮できる。だから何としても我が国はヒルデガルトを取り返そうとしたのだが、交渉は失敗した。彼女は絶対に首を縦に振らなかったのだ」


「お祖母様が……」


聖女として望まれながらも、愛する人との結婚を望んだなんて……


「そして『レノスト王国』は我が国に要求してきた。二度とヒルデガルトを要求させない為に人質をよこせと。……そして『エデル』から交代で人質を提供するようになった。俺もそのうちのひとりだったんだ」


アルベルトが寂しげに笑う。


「そ、そうだったのですか……?」


そんな話はちっとも知らなかった。何しろ回帰前の私とアルベルトは会話すら出来ないような関係だったからだ。


「やがて彼女は亡くなり、俺は国に帰ることになったんだ」


「そうでしたか……」


俯くと、アルベルトの手が頬に添えられた。


「『レノスト』国はヒルデガルトが亡くなったことにより、衰退していった。しかし、ある日『エデル』に宣戦布告してきた。そして戦争がおこり……『レノスト』は負けた。何故お前の国はそんなマネをしたか分かるか?」


「そ、それは……まさか私が錬金術師だったから……?」


「ああ、そうだ」


頷くアルベルト。


私が錬金術師であることは祖母と私だけの秘密だったはずなのに?


でも、自分がきっかけで戦争がおこったなんて――




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