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第2章 216 倒れていた青年

 自分の勘を信じて左側の水路を進んでいると、いつの間にか姿が元に戻っていることに気が付いた。


「薬の効果が切れたのね…‥」


自分の手を見つめ、ポツリと言葉を口にする。一瞬、次の【クリア】を口にしようと思い……やめた。

どうせなら町に着く前に使用した方が良いかもしれない。ここなら足音も響くので万一誰かがやってきてもすぐに気づく。そのときに【クリア】を使えば良いのだから。


そのまま歩き続けていると、薄暗い水路の先に何か黒い物体のようなものが見えた。


「あれはいったい何かしら?」


慎重に進んでいくと、人影であることに気付いた。ここからでは遠目で良く見えないが、どうやら男性のように見える。


一瞬警戒したが、すぐに考えを改めた。

まさか、アルベルト……!?

この隠し通路は恐らく私とアルベルトしか知らないはず。きっと彼に違いない。


私は一縷の望みを掛けて、ゆっくりとその人物に近づいていくと様子がおかしいことに気づいた。

その人影は床の上に倒れていたのだ。こちらに背を向けるように横たわってはいるが、アルベルトではない。


え……? 一体誰? もしかして……追手?


足を止め遠目から観察する限り、身動き一つしない。こんな水路で眠りにつくはずは無い。ということは、死んでいるか……具合が悪くて意識を失っているかのどちらかだ。


どうすれば良いのか迷った。けれど、ここに人が倒れているということは恐らくこの道が正しいということだ。

どのみち水路を抜けて進まなくてはならないのだ。


私は意を決して、ゆっくりとその人物に近付き……声を掛けた。


「あの、大丈夫ですか……?」


「……」


しかし、倒れたままの人物からは返事がない。もしかして死んでいるのだろうか……?


恐る恐る正面に周り、その人物を良く観察してみる。黒髪に若い青年は真っ青な顔をしているものの、かろうじて息をしていることが分かった。


「一体何故こんな場所で……」


口にしかけ、あることに気づいた。今まで薄暗いことと、青年が黒いシャツを着ていたので分からなかったのだが彼の腹部にはどす黒い血で染まっていたのだ。


「酷い出血……!」


彼が何者か分からないが、このまま見殺しにすることは出来ない。それに城の見張りたちが、怪しい人物が紛れ込んでいたという話をしていたことを思い出す。


「もしかして、この人がそうなのかしら……?」


この水路を知っているということは、少なくともアルベルトの味方に違いない。


助けなければ……!


「ごめんなさい、少し失礼するわね」


意識のない青年に声をかけると、シャツのボタンを外して前を開いてみると、腹部に布が巻かれている。そしてそこからはおびただしい量の血が滲み出していた。


「まだ出血が止まっていないのだわ……」


【エリクサー】の効果を高めるには傷口に直接注ぐのが一番手っ取り早い。


「辛いかもしれないけど、我慢してね」


私は持っていた小型ナイフで青年の腹部を締め付けている布地を切ると、慎重に解いていく。


「……なんて酷い……」


青年の腹部の傷は酷いことになっていた。剣で切られたのだろうか?横に大きく切り裂かれた傷からは絶え間なく血が流れている。


すぐに持っていた布を傷口にあてて血を拭うと【エリクサー】を注いだ――


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