第2章 215 逃走への道
「そ、そんな……扉に見張りがいるなんて‥‥‥」
クリアを飲んで姿を消した私は城から出る為に正面扉に行ってみた。けれど、そこには見張りの騎士達が閉ざされた扉の前で剣を携えて見張りをしていたのだ。
今夜は宰相の開催する晩餐会が開かれる夜。
当然大勢の来賓客達も来るので開城されていると思っていた。
けれど、扉が閉ざされていては出ることは出来ない。そこで使用人たちの利用する通用口に向かったのだが、そこでも見張りの兵士がいて扉が固く閉ざされていたのだ。
「困ったわ……一体、どうやってこの城から逃げればいいの……」
八方ふさがりになった私は思わず廊下の片隅で座り込んでしまった。頭を抱えて、これからどうすれば良いのか思い悩んでいた時に、ふとアルベルトと隠し部屋で交わした会話を思い出した。
『左側の扉は地下水路に繋がっている。地下水路をどこまでも進めば王都に辿り着くことが出来る』
「そうだわ……アルベルトの執務室……!」
もしかすると、今はあの部屋の前には見張りがいないかもしれない……!
一縷の望みを掛けて、急いでアルベルトの執務室を目指した。
**
「良かった……! 誰もいないわ……!」
執務室の前には見張りが誰もいなかった。しかも幸いなことに、扉も開け放たれていたのだ。
どうか誰も室内にいませんように……。
祈るような気持で恐る恐るアルベルトの執務室へ足を踏み入れると、室内には人の気配は無い。
それでもまだ油断は出来ない。
自分の姿が見えないのは分かり切っていたたが、私は慎重に足を進め……ついに隠し扉の前にやってきた。
もう一度辺りに誰も人がいないのを確認すると、以前アルベルトが見せてくれたように本棚の隠し扉を開くスイッチに触れた。
カチャリ……
思った以上に静かな部屋に響くしかけの音にビクリとしながら、扉を開けるとすぐに室内へ入り込み、扉を締めた。
それでもまだ安心は出来ない。もしかするとこの隠し部屋の存在を知っているものがやってくるかもしれないのだ。
例えばアルベルトが信頼していたはずのダンテ……
その時、先程私がいた部屋に人の話し声が聞こえ始めた。
『全く、あの女も陛下も何処に姿を隠したのだ……』
『もしかすると、クラウディアと陛下は予め口裏をあわせて何処かで落ち合っているかもしれない』
え……? あの声は……!
驚いたことに、もうひとりの声の主はダンテだった。その口調はとても乱暴なものだった。
万一にもこの場所をダンテが知っていて、踏み込まれたら……!
左側の扉を開けて、中へ入ると私は急いで扉を締めた。
****
地下水路は真ん中に水が流れ込み、両端は歩けるように通路になっていた。壁にはところどころ、光る魔石が埋め込まれておりぼんやりと辺りを照らしている。
「寒いわ……」
城の地下を流れる水路というだけあって、そこはとても寒い場所だった。
白い息を吐きながら、寒さに耐えつつ私はどこまでもまっすぐに伸びている通路を歩き続けた。
それにしても一体いつからダンテはアルベルトを裏切っていたのだろう? それとも初めから裏切っていたのだろうか?
どうして……
「どうして、アルベルトの周囲は……敵ばかりなのかしら……」
気づけば、もう一つの疑問を私は口にしていた。彼はこの国の国王であるのに、城の内部には敵しかいないように見える。
でも一体何故だろう? 回帰前のアルベルトには敵などいないように見えたのに……?
「あ……」
その時、前方が二手に別れている場所が現れた。
「困ったわ……一体どっちに進めばいいのかしら?」
古典的な方法ではあるけれど、私は水路に指を浸し、かざしてみた。
これで風が感じられる方向が分かれば……
すると、左側から風が吹いていることに気付いた。
「あ……こっちだわ」
私は自分を信じて左側を進むことにした――




