第2章 212 命令
「リーシャ達は……一体何処にいるのかしら……」
地下牢からある程度距離が離れた場所までやってくると、ため息が漏れた。
「そうですね……地下牢には俺たちしか入れられませんでしたが、恐らく何処かに閉じ込められているのは間違いないでしょうね」
ハインリヒが返事をする。
「彼女たちは囮として捕らえられているに違いありません。クラウディア様をおびき寄せるために。それに陛下が消えてしまっというのも気になります」
隣からはユダの声が聞こえる。アルベルトが行方不明ということは、城を抜け出すことに成功したのだろう。私に教えてくれた隠し通路を通り抜けて城の外に脱出したのだと……信じたい。
それよりも今一番気になるのはやはりリーシャたちの行方だった。
「酷い目に遭わせれていなければいいのだけど……あなた達のように」
「クラウディア様……多分、いくら何でも女性たちには流石の宰相も酷い目に合わせないのでは無いですか?」
背後からザカリーが声をかけてきた。
「だと、いいのだけど……」
彼らは皆知らない。
宰相もカチュアも……相手が女性だからと言って容赦しないことを。
現に回帰前、私は処刑されるまで生きるか死ぬか……ギリギリの状態で監獄に閉じ込められていたのだ。
満足な水や食料も与えられず……飢えや喉の乾きにどれだけ苦しめられてきたか。
けれどこの場ではその話をすることもできないし、何より不安な思いをさせる必要もないだろう。
「それにしても、全く手がかりが無いと捜しようがないな……」
呟くハインリヒに私は覚悟を決めた。
「このまま、あてもなく捜し回っていても仕方がないわ……まずは私達が入ってきた通用口に戻りましょう。きっと仲間たちが待っているだろうから」
「そうですね。一度戻って状況を説明したほうがいいでしょう」
私の言葉にサムがうなずき、取り敢えず私達は通用口に戻ることにした――
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【クリア】の効果が切れる前に、私達は先程の通用口の前にたどり着いた。乗ってきた馬車には既に大量のシーツ類が運び込まれている。そして御者台には仲間が座っている。
……あの中に隠れれば、城の者たちにバレることなく逃げることが出来るだろう。
そこで私は姿を消したユダたちに話しかけた。
「皆は、あの荷馬車の中に入って身を隠して頂戴。御者にはさり気なく乗り込むとき、声を掛けて気づかせてあげるのよ」
「クラウディア様……まさか、乗らないつもりですか?」
私の口ぶりで、ユダは気付いたのだろう。
「ええ、そうよ。私は行かない、あなた達だけで乗って頂戴」
「何を言っておられるのですか? クラウディア様を置いて行けるはず無いではありませんか。それに薬の効果が切れれば姿が見えて捕まってしまいます」
ハインリヒの声に焦りが見られた。
「大丈夫よ、姿は見えないだろうけど、今の私は変装しているのよ。だからバレることはないわ。元々私の顔なんて、あまり知られていないのだから」
「ですが……」
なおも食い下がってくるユダ。
「リーシャたちを助け出せていれば、このまま一緒に帰る事もできただろうけど……まだ見つかっていないでしょう? それに地下牢が空っぽになっていることはいずれ、すぐに露呈するわ。そうなったらまだ何処かで捕まっているリーシャ達がただでは済まないでしょう?」
残酷な宰相のことだ。見せしめのために、彼女たちに酷いことをするかもしれない。
「私は使用人のふりをして、城に残ってリーシャたちを必ず見つけて助け出すわ。だからあなた達は先に行きなさい。これは……命令よ」
私はもうこれ以上自分のせいで大切な仲間たちを巻き込みたくはなかった。命令と言えば、聞いてくれるだろう。
「で、ですが……」
「そのような命令は聞けません」
ハインリヒとユダが拒否をする。
「忘れたの? 私は錬金術師よ。まだ色々な秘薬を持ち歩いているから大丈夫よ」
「わ、分かりました……」
流石にこの言葉で納得したのか、ユダが返事をする。
「それなら、早く皆馬車に乗って頂戴」
私が急かすと、彼らが去っていく気配を感じる。恐らく馬車に向かったのだろう。
「皆……無事に町に辿り着いて頂戴」
遠くにある荷馬車に告げると、私は再び城の中へ入っていった。
まずは……メイド服を手に入れなければ――!




