第2章 211 騎士達の会話
「ザカリー!」
一番奥の牢屋に駆け寄ると、私は鉄格子を掴んで彼の名を呼んだ。
「……」
けれど全く返事がない。薄暗い地下牢の中では何者かが床の上に横たわっている姿がかろうじて見える。
「もしかすると気を失っているのかもしれないな……」
ハインリヒが唸るように呟く。
「え……?」
驚いて彼を振り向いた。
「私達はこの地下牢に連れてこられる前にムチで激しく打たれました。中でも……彼が一番手酷く打たれたのです。……クラウディア様と同じ国の出身者だったので」
「そ、そんな……!」
どうしよう、私のせいで……ここにいる皆を巻き添えにしてしまったのだ。
「サム……!」
悲痛な思いでサムを見る。
「大丈夫です、クラウディア様。もう少しで鍵を開けられそうです」
サムはザカリーの牢屋に来ると、すぐに鍵の解錠作業に入っていた。
カチャカチャ………ガチャ!
鍵の開く音が響き渡る。
「開きました! クラウディア様!」
サムの言葉と同時に、私達は一斉にザカリーの元へ駆け寄った。
「おい! しっかりしろ!」
ユダがザカリーを抱き起こす。
「うぅうう……」
薄暗い部屋なので、あまり良く見えないが彼の顔にはアザや血のこびりついた痕がうっすら見える。
なんて酷い……
「ザカリー、すぐに治してあげるわ」
すぐにエリクサーの瓶を取り出すと、残りの液体を全て彼の身体にふりかけた。
するとザカリーの身体が一瞬眩しく光り輝き、すぐに彼は目を開けた。
「え? クラウディア様?」
「そう、私よ。良かった……ザカリー……」
思わず涙ぐみそうになるのを必死にこらえると、私は全員を見渡した。
「みんな、またいつ見張りが来るか分からないわ。早くこれを飲んで!」
説明する間も惜しんで、私は牢屋に閉じ込められていた三人に【クリア】の瓶を手渡した――
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「やはり、クラウディア様は素晴らしい方ですね。流石は聖女様です」
姿は見えないけれども、隣を歩くユダが声をかけてくる。今、私たちはリーシャたちの行方を捜している最中だった。
「ユダ……。何度も言うようだけど、私は聖女などではないわ。【錬金術師】よ?」
「いいえ、その高潔なところもまさに聖女様にふさわしいです。まして、あのときに……」
「し! 誰か来る!」
そこへ前方を歩いているはずのハインリヒが足を止めた。私たちの間に緊張が走る。
向かい側から歩いてくるのはふたりの騎士だった。彼らは話をしながら近づいてくる。
「……それにしても、陛下は一体何処へ消えたのだろう?」
「そうだな……城に紛れ込んでいた怪しい男が手引して逃したのだろうか?」
「どうだろうな。だが、どう見てもただの平民にしか見えなかったぞ? 宰相様は随分と疑っているようだったが……」
「いや、だがやはり怪しい人物だったに違いない。そうでなければあんな場所にいるはずが無いからな……ん?」
ひとりの騎士が足を止め……私の身体に緊張が走った。
「どうかしたのか?」
別の騎士が声を掛ける。
「いや……何でも無い、どうやら気のせいだったようだ」
「そうか、なら行くぞ」
「ああ」
私たちはふたりが遠ざかって行くのを息を潜めながら立っていた。
それにしても、騎士達の会話が気になる。
彼等は一体、誰の話をしていたのだろう――?




