第2章 210 地下牢の囚われ人
「あ……あれはユダさんの声ですよ」
トマスが囁くように言う。
「ええ、そのようね……近づいて様子を見ましょう」
「「はい」」
トマスとサムが返事をする。そこで私達は互いの腰にくくりつけた紐を握りしめながら、慎重に牢屋に近づく。すると、薄暗い牢屋の中にうずくまる人物がいた。
その人物は……
「ユダ……」
口の中で小さく呟く。薄暗いせいでよく見ることができないが、うずくまっているということはもしかすると……!
先程すれ違ったときの宰相の言葉が蘇る。
『あれだけ痛めつけても絶対に口を割らないんだからな……!』
「うぅ……う……」
ユダの声は酷く苦しげだった。早く牢屋を開けてユダを助けてあげなければ……!
「お願い、サム。鍵を開けられるかしら?」
傍らにいるはずのサムに声をかける。
「はい、クラウディア様」
そしてサムは鍵に近づくと、カチャカチャと外しにかかった。金属の触れ合う音が地下牢に響き、ユダが反応する。
「な……何だ!? この音は……うっ!」
すると、別の場所から声が聞こえてきた。
「ど、どうした……ユダ……先程の兵士は……ど、どうし……た……?」
途切れ途切れに聞こえるのはハインリヒの声だ。彼もまた酷く痛めつけられているのかもしれない。
ここで声をかければ、騒ぎになるかもしれない。取り敢えず、サムが鍵を開け終えるまでは様子を見ることにした。
カチャ!
その時、鍵が外れる音がした。
「開きました……クラウディア様」
「そう、良かったわ……」
その時――
「あ……ク、クラウディア様の姿が……」
トマスが声を震わせる。
「え?」
振り向くと、トマスの身体がうっすら見え始めている。薬の効果が切れたのだ。
「トマス、貴方の身体もよ!」
そしてサムの姿も見え始めていた。
「え……? ま、まさか……その声は……クラウディア様……!?」
暗闇にうずくまるユダが身動きした。
「な、何だって……? ク、クラウディア様……が……?」
ハインリヒの声が奥から聞こえる。
「ええ! そうよ! 私よ、みんなを助けに来たわ!」
私は素早くサムの紐を外すと頼んだ。
「おねがい、サム。隣の牢屋の鍵も開けてきて!」
「はい! クラウディア様!」
サムはすぐに隣の牢屋に移動して、解錠を始める。
「ユダ! 大丈夫なの!?」
私はトマスとともに、地下牢の扉を開けるとユダに駆け寄った。
「クラウディア様……ど、どうやってここに……うっ!」
苦しそうにユダが顔を歪める。薄暗い地下牢のせいで様子がよく分からないが、ユダは相当怪我を負わされている。
「そんな話は後よ、まずは怪我の手当をしないと」
急いでメッセンジャーバッグからエリクサーを取り出すと、すぐにユダの身体にふりかけた。
すると――
一瞬、ユダの身体が光に包まれて地下牢を明るく照らす。そして……
「クラウディア様! 申し訳ございません! 俺は貴女の護衛騎士でありながら……逆に助けてもらうなんて……!」
ユダは突然頭を下げてきた。
「そんなことはいいのよ。それよりもハインリヒが心配だわ。すぐにここを出ましょう」
「はい!」
私達三人は牢屋を出ると、次にハインリヒが閉じ込められている牢屋へと向かった。
「どう? サム……開けられそう?」
私は鍵を開けているサムに尋ねた。
「はい……もうすぐです……あ! 開きました!」
サムが扉を開けた。
「ハインリヒ! 大丈夫!」
「クラウディア……様……」
ハインリヒがうめき声を上げる。
「待っていて! すぐに治してあげるわ!」
エリクサーを掛けると、ユダと同様に彼の身体が光って瞬時に怪我が治る。
「こ、これは一体……」
怪我が治って呆然とするハインリヒにユダが自慢気に語る。
「これがクラウディア様の力ですよ。相変わらずお見事です……」
「まだザカリーが捕まっています! 彼はこの一番奥の牢屋に入れられています!」
ハインリヒが教えてくれた。
「すぐに行きましょう!」
私達は急いでザカリーの入れらている牢屋に向かった――




