第2章 203 時間の感覚
「これが……姿を消すことの出来る【クリア】という液体ですか?」
トマスがボウルの中で光り輝く【クリア】を見つめながら尋ねてきた。
「ええ、そうよ。あの液体をテーブルの上に並べてあるガラス瓶に入れるのを手伝ってくれる?」
ずらりと並べられたガラスの小瓶を指さした。
「ええ、勿論です。僕がやりますのでクラウディア様はどうぞ休んでいて下さい。顔色が悪いですよ?」
「ありがとう。そうしてもらえると助かるわ。実は立っているのもやっとなほど疲れていて……」
そこまで言った時、酷いめまいがして足元がふらついた。
「危ない! しっかりして下さい!」
咄嗟にトマスが支えてくれた。
「ありがとうトマス。お願いね」
「とりあえずソファで休まれて下さい」
「そうさせてもらうわ」
ふらつく足で部屋の片隅に置かれたソファに沈み込むように座ると、そのまま私は目を閉じた――
「う……ん……」
ゴロリと寝返りを打ったところで、ふと私は目を覚ました。
「え……?」
気付くと、私はソファの上で横たわって眠っていたのだ。誰が掛けてくれたかは不明だが、身体にはブランケットが掛けてある。
部屋の中はすっかり明るい日差しが差し込んでいて、私は時間の感覚を失ってしまっていた。
「一体、今は何時なのかしら?」
眠りについたのが良かったのだろう。あれほど酷かった倦怠感は大分和らいでいる。
ソファから起き上がり、テーブルに近付くと液体の注がれた小瓶が並べられていた。
本数を数えると、全部で22本あった。
これだけあれば城の中で姿を消したまま行動するには十分のはず。
「トマスが用意してくれたのね」
扉を開けて部屋を出ると、たまたま廊下を歩いていた青年が私に気付いた。
「あ……クラウディア様! 目が覚めたのですね!?」
「はい、たった今目が覚めました。トマスはどこにいるのか分かりますか?」
「トマスさんなら皆と一緒にホールにいます。一緒に行きましょう」
そして私は青年と一緒にホールへ向かった。
「クラウディア様!」
ホールには救済院の人々が集まっており、私の姿をいち早く見つけたトマスが駆け寄ってきた。
「クラウディア様、良かった……また眠ってしまわれたので、本当に心配したのですよ」
心配そうな表情を浮かべるトマス。そこへペトロがやってきた。
「クラウディア様、お目覚めになられたのですね? 良かったです。安心しました」
「あ、あの……一体私はどのくらいの間、眠っていたのかしら? 時間の感覚が実は全く無くなってしまって」
「はい、クラウディア様は……半日眠られていました。今は午後2時を過ぎたところです」
トマスが教えてくれた。
「え!? そ、そんなに? 大変だわ……一刻も早く城へ行って皆を助けなければいけないのに……」
「それがクラウディア様。実は大変なことが起こっておりまして……」
ペトロが深刻な顔を浮かべた。
この後、私は驚きの事実を知ることになる――




