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第1章 31 傷病者の町『クリーク』 8

「はい、お話とは何でしょう。伺います」


居住まいを正して、真っ直ぐ町長の目を見た。


本当はこんなことをしている余裕は無かった。

城に作り置きしておいた【エリクサー】は全て運んできたけれども、傷病者全員分に使用できるか分からない。

私はこの町に滞在している間に全ての傷病者を治療してあげたかった。


【エリクサー】を作るには時間がかかる。

本音を言えば今の私には一分一秒でも時間が惜しい。

しかし、本当に和解するにはまず信用を取り戻すことが一番大事…。


日本人として生きていた頃に私が学んだことだ。



町長さんは私を睨みつけると、今までの不満を一度にぶつけてきた。


「こうして医療品を持ってきて下さったことには感謝いたしますが…一体今頃どういうおつもりなのですか?重い怪我を人を治療することが出来ずに、何人の兵士たちが亡くなっていったと思うのですか?初めはそれ程重い怪我では無かったのに、満足のいく処置をしてあげることが出来ずに怪我が悪化してしまった兵士の数をご存知ですか?貴女は王女だから戦争に参加してはいないでしょうが…ここはまさに戦場になったのです。そして戦争が終わった今でも怪我の治療との戦いなのですよっ?!」


町長さんの言葉は尤もだった。

この人の言葉の一語一句が私の心に深く突き刺さってくる。それなのに回帰前の私は彼等に冷たい態度を取ったのだ。




『私には全く関係ないことよ』


と―。


このことが批判を浴び、私は『レノスト王国の悪女』という不名誉な称号を付けられることになってしまった。



「黙っていないで反論でも何でもすればいい。何しろ貴女はいくら戦争に負けてしまったからと言っても所詮王女なのだから」


町長さんの背後に立っていたメガネをかけた青年は怒気の混ざった声で私をなじる。


「大体、今頃遅すぎるのですよ!医療品はありがたいですが、我々が今一番望んでいるのは腕の良い医者なのです!大体何ですか?わざとらしくそんなみすぼらしい格好でこの町にやってきて…もしかして自分は惨めな王女だと我々の同情を買い、今迄放置していた罪から逃れるおつもりですか?!」


もう1人の青年は更に私に怒りをぶつけてくる。


「申し訳ございません…すぐにこちらに伺えなかったのは、国王や兄…重臣達の戦争裁判が行われていたからです。そして…城には医者がもういなかったのです…。私達が勝手に起こした戦争により、医者として戦場に狩り出され…戦死してしまいましたので…」


私は項垂れて、状況を説明した。

そう、あの無意味な戦争のお陰で…私達は多くのものを失ってしまった…。



「「「!!!」」」


私の話を聞いた彼等が息を呑むのを感じた。

まさか、城にはもう医者がいないとは思いもしていなかったのだろう。


「だから私が参りました。医者としての知識はありませんが、傷口の消毒や包帯の交換なら出来ます。どうか私にもお手伝いをさせて頂けませんか?お願いしますっ!」


私は頭を下げた。

まだ…この人達には【エリクサー】のことを説明するわけにはいかない。


「何を言ってるのです?はっきり言って温室育ちの王女様に傷病者の手当など出来るはずも無いでしょう?こっちは…貴女を見ているだけで不愉快になってくる。医療品だけはありがたく受け取らせて頂きますが、もうこの町から出て行って下さいっ!」


「…」


私は何も言い返すことが出来なかった。

まさかこれほどまでに憎まれているとは思いもしていなかった。

それでも私は引き下がるわけにはいかない。


すると町長がついに見かねたのか、私に文句を言った青年を咎めた。


「いい加減にするんだ!トマスッ!この方は仮にも王女なのだぞ?」


「ですが…!」


トマスと呼ばれた青年は不満を顕にしている。


「町長!しかし、トマスの言うことも尤もですよ!俺だって…」


メガネを掛けた青年が反論しようとしたその時…。




「クラウディア様っ!」


ユダがこちらへ向って駆けつけてきた―。

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