第2章 202 駆けつけてきたトマス
救済院の人々に見送られながら私は用意してもらった部屋に入った。
木製の大きなテーブルと椅子が置かれているだけのシンプルな部屋。
「今回はかなりの量の【クリア】を作らなければならないから、かなり時間がかかるかもしれないわね……」
時間がかかるということは、それだけ身体への負担もかかる。それは錬金術の失敗に繋がる可能性もあるのだ。
「気を抜かないようにしなければいけないわね」
テーブルの上に錬金術の術式を仕上げる為の道具を並べながら呟く。
自分の目の前に光り輝く『賢者の石』を手に取ると、精神統一を図る。
「……」
少しの間、目を閉じて全神経を『賢者の石』に注ぎ込むとテーブルの上に戻した。
「さて、始めましょう」
私は錬金術を開始した――
****
どれくらい時間が経過しただろうか……
「う……」
気付くと、私は床の上に倒れていた。部屋の中は真っ暗で、テーブルの上がぼんやりと光っている。
ゆっくり起き上がり、テーブルを見ると、3つのボウルの中には白く光り輝く液体が溢れんばかりに注がれていた。
「出来上がっていたのね……? それにしても今は何時なのかしら?」
テーブルの上に置かれたオイルランプはとっくに明かりが消えていた。錬金術を始めるために部屋に入ったのは午前十時を少し過ぎた頃だった。
室内は闇に包まれているけれども、トマスがやってきた気配はない。ということは、まだ日付は変わっていないのかもしれない。
「この部屋に時計があれば良かったわね……」
けれど今一番重要なのは出来上がった【クリア】を瓶に移し替えることだ。
幸い、ここは救済院。薬品を保存するための瓶なら豊富にある。
私は事前にこの瓶を二十本程分けてもらっていた。これくらいあれば全ての液体を瓶に入れることが出来るだろう。
私が錬金術で作り上げる液体はどれもが明るく光り輝く液体だ。オイルランプの明かりは無くても、差支えはない。
早速瓶の蓋を開けて、ボウルから【クリア】を移し替えようとしたその時――
――コンコンコンコン!
扉を激しくノックする音とともに、トマスの声が聞こえてきた。
『クラウディア様! ご無事ですか!?』
慌てて扉を開けると、この部屋まで走ってきたのだろうか? トマスが髪を乱し、荒い息を吐きながら立っていた。
「よ、良かった……ご無事だったのですね……」
トマスは安心したのか、その場に崩れ落ちた。
「トマス、大丈夫?」
声を掛けると、彼は顔を上げた。
「はい、大丈夫です。取り乱してしまい、申し訳ございません。ただ、あまりにも遅かったものですから」
「遅かった……? 今何時なのかしら?」
「はい、午前1時を過ぎたところです。実は日付が変わってすぐに一度こちらの方へ伺ったのですが、扉の隙間から眩しい程の光がほとばしっていたのです。なのでまだ錬金術が終わっていないのだろうと思い、引き返しました」
「え? そうだったの?」
まさか午前1時を過ぎていたなんて……これだけの量を作り上げるには相当時間がかかるのだろう。それに自分の身体も疲労困憊している。
「それで、【クリア】は出来上がったのですか?」
「ええ。出来たわ、あれよ」
私はテーブルの上を指さした――




