第2章 201 私からのお願い
「クラウディア様。これからの予定はどうされるおつもりですか?」
食事を始めると、早速トマスが尋ねてきた。
「まずは錬金術を使って姿を消す液体を作り上げるわ」
「確か【クリア】という液体ですよね?」
「ええ、ここにいる人々にも協力して欲しいから多目に作らないといけないわ。だから時間がかかるかもしれない」
「そうなのですか? どれくらいですか?」
トマスは錬金術のことは殆知らない。なので私は説明することにした。
「一度錬金術に取り掛かると、トランス状態……自分で自分の意識を保っていることが困難になるの。当然時間の感覚も無くなってしまう。それにもし万一、失敗してしまえば、何が起こるか分からないのよ。術者の命が失われてしまうかもしれないし、爆発事故が起きてしまうかもしれない……」
するとトマスの顔色が青ざめた。
「な、何ですって……そんなに錬金術というのは大変なものだったのですか……?」
「ええ、そうなの」
そう、錬金術は……まさに命懸けの術式なのだ。失敗して命を落としていった術者は数多くいる。だから年々、術者が減ってゆき……今では希少価値の高い存在となったのだから。
「それでは……僕がお手伝い出来ることは……?」
ためらいがちに尋ねてくるトマス。
「折角の申し出だけど、無いわ。ただ、その代わりお願いがあるの。【クリア】を作るまでの間、この建物全体をひとりで借りたいの。何が起こるか分からないから……だから私が救済院から出てくるまでの間は誰も近づけないようにしてもらいたの」
「……分かりました。お任せ下さい。必ずクラウディア様の言いつけは守ります」
「ありがとう。後はもう一つお願いがあるのだけど……」
私は自分で考えた、城へ潜入するための計画をトマスに打ち明けた――
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午前十時――
私はこの救済院で暮らす全ての人たちを外に集めて話をはじめた。
「それでは皆さん。申し訳ありませんが、本日こちらの救済院をお借りいたします。何時まで借りることになるかは時間は定かではありませんが、ご協力のほどよろしくお願いいたします」
「どうぞ、我らのことは気にせずにご自由にこちらの救済院をお使い下さい」
ペトロが笑顔で声を掛けてきた。
「ありがとうございます。後、一つお願いがあります。万一日付が変わるまでに私が救済院から出てこないようであれば……どなたか様子を見に来て頂けますか?」
「はい! それでは僕にその役をやらせて下さい!」
トマスが真っ先に手を上げた。
「トマス……」
「僕では何のお役にも立てませんが……せめて、それくらいのことはさせて下さい」
その目は真剣だった。
「ありがとう、トマス。それではあなたにお願いします」
そして、私は再び人々に目を向けた。
「では皆さん、どうぞよろしくお願いします!」
『はい!!』
私の言葉に、救済院の人々は一斉に返事をした――




