第2章 200 歓迎の席
翌朝――
「今日も良い天気ね……」
ベッドから降りた私は窓を開けて外を眺めた。
目の前には貧しい家屋が建ち並んでいる。城から見える景色とは大違いだった。
「それでも貧民街に比べるとまだまともな方よね……」
あそこは本当に酷い場所だった。半分以上崩壊した家屋。
扉のない家……
恐らく日本では見られない光景だろう。
「日本……」
久しぶりに日本で暮らしていた頃の夢を見てしまったせいで、感傷的な気持ちになってしまっている。
いくら回帰してきたからと言っても、やはりこの世界は自分が本来いるべき世界では無いように思える。
戻りたい。日本人だったあの頃に……橋本恵として。
けれど、それは叶わぬ夢。戻ろうにも戻り方など分からないのだから。
第一、あの世界の私はもう……交通事故で……
「駄目ね、どうにも悲観的な気持ちになってしまって。私には考え事をしている暇など無いのに」
私は自分自身を奮い立たせると、部屋を出た。
「あ、おはようございます。クラウディア様。丁度今お部屋に伺おうと思っていたのです」
前方からペトロがこちらへ向かって歩いてきた。
「おはようございます、ペトロさん」
「おお……まさか、クラウディア様にお名前を覚えていてもらえたとは光栄です」
ペトロは笑みを浮かべる。
「ええ、当然です。それで私にどのようなご用件でしょうか?」
「はい、朝食の準備が出来ましたのでお迎えに参りました。もっとも……朝食と言っても大した物は御用意することが出来ませんでしたが」
恥ずかしそうにペトロが頭を下げた。
自分達の生活だって大変だろうに、私の分まで……
「いえ、お心遣いありがとうございます。ではお言葉に甘えさせて下さい」
「ええ、勿論です。どうぞこちらへ」
そして私はペトロの案内で食堂へ向かった。
食堂へ行ってみると細長いテーブルが2台置かれて、既にテーブルを囲んで三十名程の老若男女が集められていた。
彼らは私を見ると全員が立ち上がった。
「おはようございます!」
「この度は我々を助けて頂き、感謝致します」
「どんなことでもお手伝い致しますよ!」
「あ、ありがとうございます。皆さん……」
頼もしい言葉に感謝の意を述べると、大きな声で呼ばれた。
「クラウディア様! こちらへどうぞ!」
見ると、トマスが大きく手を振っている。よく見ると、隣の席が空白になっている。
そこで私はトマスの元へ向かうと、彼は椅子を引いてくれた。
テーブルの上には既にパンとチーズ、サラダが並べられていた。
「さ、どうぞ掛けて下さい」
「ありがとう」
着席すると隣にペトロが座り、周囲を見渡した。
「昨夜は全員がこの場にいなかったので、まだお会いしていなかった者たちもいるだろう。こちらの方はクラウディア様だ。いずれ、この国の王妃になられるお方で我々を助けて下さったのだ」
その言葉に全員が拍手した。
「それでは、全員揃ったところで食事を始めましょう」
ペトロの言葉と共に、ささやかな朝食が始まった――




