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第2章 199 弱気な心

 私は救済院の一室を借りて、今夜は休ませてもらうことにした。


そこは個室になっており、長い間空き部屋になっていたそうだ。その部屋に救済院の人々はベッド、机、椅子を運んでくれたのだ。



「申し訳ございません、貴女はこの国のいずれは王妃になるお方なのに、このような粗末なお部屋しかご用意出来ませんでした。それに食事も……」


この部屋を用意してくれた初老の男性は申し訳無さそうに謝罪してきた。


「いいえ。そんなことありません。パンとスープ、とても美味しかったです。それに急に押しかけてしまったのに、部屋も用意して頂いて感謝の気持で一杯です」


お礼を述べると笑みを浮かべた。すると周囲の人々がざわめく。


「こんなささやかなもてなしを喜んでくださるとは」

「なんて素晴らしいお方なのだろう」


彼らの言葉はどれも私に対する賛辞であり、何となく気恥ずかしい気持ちになってくる。


「では、クラウディア様。お疲れでしょうから今夜はどうぞごゆっくりお休み下さい」


再び先程の初老男性が声を掛けてきた。そう言えば、まだ一度も名前を聞いていなかったことを思い出す。


「ありがとうございます。それで……あなたのお名前は……」


「はい、ペトロと申します」


「……!」


私はその名前に驚いて目を見開いてしまった。ペトロ……この名前もまたイエスキリストの使徒の名前の一人だったからだ。

なにか不思議な縁のようなものを感じ、思わずじっとペトロを見つめてしまった。


「あの……どうかされましたか?」


困惑気味の顔でペトロが首を傾げる、


「い、いえ。何でもありません。ペトロさん、色々ありがとうございます。それでは今夜一晩お世話になります」


「いえいえ! そんな……恐れおおいことです! 粗末なベッドで申し訳ございませんが、ゆっくりお休み下さい」


ペトロはそれだけ言うと、部屋を去って行った。



――パタン


扉が閉ざされると、私は早速祖母の日記帳を取り出した。他にも役立てそうな錬金術が無いか調べたかったからだ。


「中々無いわね……そもそも姿を消すことは出来ても、入り口が閉ざされていたら中に侵入することも出来ないわ……どうすれば城に入ることが出来るのかしら……あ、そうだわ!」


その時私に良い考えが浮かんだ。

そうだ、あの方法を使えば怪しまれずに城の中に侵入することが出来るかもしれない。

城の中に入ってさえしまえば、なんとかなるだろう。


「そうと決まれば、もう休んだ方がいいわね。明日は沢山【クリア】を作らなければならないのだから」


私は自分自信に言い聞かせると、ベッドの中に潜り込んだ。


「それにしても疲れたわ……こんなとき、誰か頼りになる人が側にいてくれれば……」


思わず弱気な気持ちになってしまう。


駄目だ、こんなことを考えていては。大切な仲間たちが囚われているのだから、しっかりしなくては。皆を助け出せるのは私しかいないのだから……


そんなことを思いながら、私は眠りに就いた。


そしてその夜、私は久しぶりに懐かしい日本の頃の夢を見た。



愛する夫と子供たちに囲まれた幸せな夢を――




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