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第2章 195 再び、救済院へ

「でも困ったわ……着の身着のままで城を出てしまったから、これからどうすればいいのかしら……」


とぼとぼと城下町目指して長い一本道を歩きながらため息をつく。

何しろ、今の私はお金をほとんど持っていなかったのだ。『路地裏』に炊き出しに行く際にアルベルトから支給されたお金が僅かにポケットに残っているだけである。


「これだけでは……宿屋に泊まれるかも分からないし……」


慌てて逃げてきたので、錬金術に使う道具に作り上げた液体、それに祖母からの日記帳を持ってくるだけで精一杯だった。


「他に売れそうなものは無いかしら……」


高級なアクセサリーでも身に着けていれば良かったのかもしれないが、今の私のアクセサリーはアルベルトがくれた『賢者の石』が埋め込まれた指輪のみだった。

けれど、これを手放すわけには絶対にいかない。

だからといって、むやみにエリクサーや、万能薬を売るわけにはいかない。これらが市場に出回れば大騒ぎになるのは決まっている。


これからどうしたらいいのだろう。私はとりあえず捕まらずに逃げてくることが出来たけれども、恐らくアルベルトを含めて私に関わった人たちは全員拘束されている可能性がある。


あの宰相とカチュアのことだ。彼らを人質にして、どのような形で私を脅迫してくるか分からない。


「何としてでも……皆を救出しなくてはいけないわ……」


けれど今の私はあまりにも無力。数少ない私の仲間は全員城にいる。


「あ……!」


その時、ふと私は気づいた。

そうだ。救済院に行けば、もしかすると私の味方をしてくれる人たちがいるかもしれない。

あそこには宰相の息のかかった者たちがいるかもしれないが、今の私には他に行く場所が思いつかなかった。

それにトマス。彼は城には戻らなかったので、恐らく無事に違いない。

救済院にいれば、再び会える可能性がある。


「行くしか無いわね。救済院に」


こうして私は自力で救済院に向かうことにした――




****



「はい、お嬢さん。救済院に到着したよ」


荷台に乗っていた私に、手綱を握っていた老人が声を掛けてきた。


「どうもありがとうございます」


荷台から降りると、礼を述べた。あの後……王都を目指して歩いていると荷台を馬に引かせた目の前の老人が声を掛けてきたのだ。


「いや、いいのだよ。丁度、この近くに用事があってついでに乗せてあげただけだから。それにしても驚いたよ。まさかこんなに若い娘さんが歩いて王都の救済院に行こうとしていたのだから。」


「本当に助かりました。歩いてはどれくらい時間がかかるか見当も付きませんでしたから。何かお礼を差し上げられれば良いのですが……」


「そんな、お礼なんて良いのだよ。気にしないでおくれ。それではな」


そして老人は再び手綱を握りしめると、去っていった。


「トマスはもう戻っているかしら……?」


私は彼が救済院にいることを祈りつつ、門をくぐった――



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