第2章 194 裏切り
「……え?」
アルベルトの執務室の前にはふたりの騎士が立ち塞がっていた。
ど、どういうことなの……?
姿が見えないことは分かっていたけれども、咄嗟に通路の角に隠れて様子を伺った。
「何故、アルベルトの部屋の前に騎士が……?」
まさか、彼まで拘束されてしまったのだろうか? この国の国王なのに?
その時――
背後からバタバタとこちらへ向かって近づいてくる足音が聞こえてきた。
振り向くと、三人の騎士達が駆けつけてくる姿が目に入った。
私は身じろぎ一つせずに彼らが通り過ぎるのをじっと待っていると、騎士たちは執務室の前で足を止めた。
「一体どうしたのだ?」
扉の前に立つ騎士たちが首を傾げる。
「それが、クラウディア様が見つからなかったのだ」
「何? 部屋にいなかったのか?」
「いや部屋に入ったのは見届けた。捕らえた騎士が部屋まで送り届けて中に入っていくのを見ていたからな」
「何処かに隠れているんじゃないのか?」
「そう思い、徹底的に探したのだが……どこにもいなかったんだ」
騎士たちの言葉を緊張する面持ちで私は眺めていた。すると執務室の扉が開かれ、ダンテが出てきた。
「ダンテ……」
何故ダンテが? ひょっとして、彼は軟禁状態にされて……? でもそれにしては妙に怪しい。
「一体何の騒ぎですか?」
ダンテが騎士たちに尋ねた。
「それが……クラウディア様が見つからないそうです」
「何ですって? それは本当の話ですか?」
「はい、いくら部屋の中を捜しても何処にも姿は見えませんでした」
「やっかいな……二人一緒に捕らえるよう、リシュリー様に命じられているのに……」
ダンテの言葉に耳を疑った。
まさか……ダンテが宰相の手先だったなんて…… ! それに二人一緒に捕らえる? それはアルベルトのことに違いない。
「……アルベルトは既に捕まっている……?」
これ以上、ここにいても自分の身が危険なだけだ。恐らく、執務室にはもうアルベルトはいないだろう。
きっと、捕らえられて今頃は……
【クリア】の効果が切れる前に、城から逃げなくては。ユダまで捕らえられてしまったということは、私に関わる人々は全員同じ目に遭っているはず。
ごめんなさい……みんな……! でも必ず、助けに来るから……!
私は心の中で皆に謝罪すると、身を翻してその場を後にした――
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「はぁ……はぁ……」
息を切らせながら、振り返った。背後には城が見える。もう既に【クリア】の効果は切れて、私の身体は元に戻っている。
「効果は……一時間くらいってことかしら……」
今の私の姿は何処からどう見てもただの町娘の姿をしている。それに私の顔を知る町の人々は恐らく誰もいないだろう。
「それだけは救いだったわね」
城下町に紛れ込んで、今後のことを考えよう。
私はふらつく足で、城下町を目指して歩き始めた――




