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第2章 192 ユダの予感

 やがて馬車が城に到着した。


「クラウディア様。それでは私はここで馬車を降りますが……私の存在は忘れても、どんな話をしたのかまでは覚えておいてくださいね」


シモンが意味深な言葉を述べてきた。


「え? 一体それはどういう意味なの?」


「言葉通りの意味ですよ。いいですか? 宰相とカチュアには十分気をつけて下さい。それでは私はこれで失礼致します」


そしてシモンは指をパチンと鳴らした――



「クラウディア様、城に到着いたしました」


馬車の扉が開かれ、ハインリヒが眼の前に立っていた。


「え、ええ……」


彼の手を借りて、馬車を降りた私は何気なく後ろを振り返った。


「……誰もいない……」


気づけばポツリと口から言葉が漏れていた。


「クラウディア様? どうされたのですか?」


ハインリヒが不思議そうに声を掛けてくる。


「い、いえ。馬車の中……私、ひとりだったかしらと思って」


「そうですよ。トマスは馬車には乗りませんでしたからね」


馬から降りたユダが返事をする。


「……そうよね……」


そう、帰りは私ひとりが馬車に乗り込んだ……はず。だけど……」


「どうかしましたか? クラウディア様。馬車が何か?」


ザカリーが尋ねてくる。


「いいえ、何でも無いわ。部屋に戻るわ」


「だったら俺が部屋まで護衛致しますよ」


ユダが名乗り出てきたので、私は彼に護衛を頼むことにした。




「それにしても、お見事でした。クラウディア様。聖女が治せなかった怪我を一瞬で治してしまうのですから」


部屋を目指して歩きながらユダが笑みを浮かべながら話しかけてくる。


「見事と言われても……あれは『黄金の果実』のお陰だから。私は彼らに果実を分け与えただけよ」


「何を仰るのですか? けれど聖地に入り、枯れ果てた聖木を見つけて蘇らせたのはクラディア様ですよ? 命の危機にさらされながらも果実を採取して持ち帰ったのも全てはクラウディア様です。もっと御自分に自信をお持ち下さい」


「そうね……分かったわ。自信を持つようにするわ」


頷くとユダが真剣な表情になる。


「クラウディア様。宰相や神殿の者たちはあの女を聖女だと言っていますが……やはり俺にはとうてい、あの女が聖女には思えません」


「ユダ……」


何だろう? 先程も誰かに同じセリフを言われた気がする。けれどそれが誰だったのか……少しも思い出せない。


「ところで、クラウディア様。話は変わりますが……」


不意にユダが声のトーンをおとした。


「どうしたの?」


「何か城に異変を感じます」


「異変……?」


私は周囲を見渡した。けれど、何も感じない。


「ごめんなさい、ユダ。私にはよく分からないわ。何かおかしな点があるの?」


「……妙なのです。何故か異様に城の中が静まり返っているような……」


「そうかしら? 元々私が暮らしているこの塔は使用人たちもあまりいないから良くわからないわ」


この城は私にとっては敵ばかりがいるようなもの。

なのでここで働く使用人の数は最低限の人数にして欲しいとアルベルトに頼んであるのだ。


「いえ、それ以前に……不穏な気配を感じます」


そしてユダは足を止めた。丁度そこは私の自室の前だった。


「……着きました。クラウディア様……部屋の中をあらためさせて頂けますか?」


真剣な表情でユダが尋ねてきた。


「え、ええ。いいわよ、どうぞ」


「失礼します」


ユダは部屋に入ってくると、グルリと周囲を見渡した。


「……気のせいか?」


口の中でユダは小さくポツリと呟くと、私を見た。


「失礼しました。ところでクラウディア様……俺が部屋から出たらしっかり部屋の戸締まりをしておいて下さい。いいですか?」


「分かったわ」


あまりにも真剣な表情のユダに頷いた。


「それでは……失礼します。万一の為に部屋の近くで待機しています」


それだけ告げると、ユダは部屋を出ていった――




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