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第2章 189 真の『黄金の果実』

「頂きます……」


男性は黄金の果実にかぶりつき、咀嚼すると飲み込んだ。

すると次の瞬間――


突然男性の身体が光り輝いた。それはほんの一瞬の出来事ではあったが、カチュアが黄金の果実として、食べさせてきた人々にはそのような反応は一度も現れなかった。


「こ、これは……!」

「光っている!」

「何て神々しい光だ……!」


私自身、まさか黄金の果実を食べた者の身体が光輝くとは夢にも思っていなかったので驚きながらも男性に尋ねた。


「それで、腕の方はいかがでしょうか?」


「はい……見て下さい!」


男性は嬉しそうに右腕を見せてきた。すると黒く変色し、壊死しかけていた腕が今はすっかり元通りになっていたのである。


すると周囲にいた人々から一斉に歓声が沸き起こる。


「素晴らしい! まさに神の奇跡だ!」

「我々にも奇跡を!」

「どうか助けて下さい!」


そして人々が私の周囲に集まってきた。中には意外なことに、カチュアが黄金の果実と偽って与えられた者までいたのだ。


「まだ黄金の果実は沢山あります。慌てないで一列に並んでください!」


患者の治療が得意なトマスが指揮をとってくれた。そこで私は持参してきた果物ナイフで『黄金の果実』を切り分け、ユダたちが人々に配って回ることにした。


当然、黄金の果実を口にした人々はその場で病気や怪我が完治したのは言うまでもない。


救済院は歓声に包まれて大変な騒ぎになっていた。



「クラウディア様」


喧騒に紛れてザカリーが声を掛けてきた。


「どうしたの?」


「ご覧ください」


ザカリーの視線の先には先程までカチュアと宰相が馬車の前で立っていた場所だ。それが今は馬車ごとふたりの姿が消えている。


「え……? いない……?」


「はい、そうです。あのふたり……騒ぎに紛れていつの間にか逃げ出してしまったようですよ」


ザカリーは何処か嬉しそうに笑っている。


「そうだったのね……」


多分いたたまれずに、城へ戻ったのだろう。


「ですが、これではっきりしました。やはりあの女は偽物聖女だったのですよ。俺はこの国の者ではありませんが……」


ザカリーは私の目をじっと見つめる。


「恐らく、クラウディア様が本物の聖女ではありませんか? 何しろ俺たちは命を救って頂いたのですから。貴女についてきて、本当に良かったと思っています」


「ザカリー……」


私は自分が聖女とは思えなかったが……人々を救うことが出来て良かった。私が勝負を言い出さなければ、カチュアは偽物の果実を使って人々を救うことなどしなかったのだから。


そこへトマスが駆けつけてきた。


「クラウディア様! まだ『黄金の果実』は残っていますか?」


「ええ。残っているわ」


「これから近隣を周って、病気や怪我で困っている人々の元へ伺っても宜しいですか? あの人達が手伝ってくれるというので」


見ると、トマスの背後には先程『黄金の果実』ですっかり元気になった人々が集まっていた。


「ええ、お願いね」


「はい! では行ってきます!」


トマスは元気よく返事をすると彼らを引き連れて行ってしまった。


「クラウディア様、よろしかったのですか?」


心配そうにザカリーが尋ねてくる。


「え? 何のこと?」


「ええ、あのように貴重な『黄金の果実』を全て渡してしまうことです。少しは手元に残しておいたほうが良かったのでは?」


「それなら大丈夫よ。だって私は……錬金術師なのだから」


そう、私は聖女ではない。錬金術師なのだ。


けれどカチュアが偽物聖女であるなら……

本物の聖女は一体どこにいるのだろう――?




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