第2章 188 私の番
「……どうです? 何か体調に変化はありますか?」
シモンが男性に尋ねる。
「……いいえ……一向に良くなる気配は……ありません……」
男性は苦しげに首を振る。
「そ、そんな馬鹿な! 嘘をつくな!」
「そうよ! その果実は本物なのだから!」
宰相とカチュアが交互に叫ぶ。
「おや? 嘘をつくなとはどういう意味です? それに本物とは? それでは今までおふたりが奇跡の力と称して分け与えていた黄金の果実は全て偽物ということになりますが?」
シモンがふたりに問いかける。
「黙れ、シモン! 貴様……神官のくせに、我々に対して何という口を叩くのだ!」
宰相は怒りの為に、顔を真っ赤にさせて体を震わせている。
「そ、その男性は嘘をついているのではありませんか!? 本当は良くなっているのに、治っていないフリをしているのでしょう!?」
カチュアが果実を食べた男性を指差す。
「治っていないフリ? 聖女殿は、彼の様子を見てもまだそのようなことを言えるのですか?」
シモンは男性の右腕を取って、ふたりに見せる。彼の右腕は相変わらずどす黒く変色したままで、壊死しかけている。
このままでは腕が完全に使い物にならなくなるのも時間の問題かもしれない。
「お願いです……どうか助けて下さい。右腕を失ってしまえば、働くことも出来ません。家族も養えず一家路頭に迷ってしまいます……」
荒い息を吐きながら、男性は必死で懇願してくる。
「お願いです!彼を助けて下さい!」
「大切な仲間なんだ!」
「どうか我々にも救いの手を!」
貧民街の人々は必死になって宰相とカチュアに訴える。
一体これはどういうことのなのだろう? まるでシモンは初めからカチュアの用意した黄金の果実が偽物だと知っていたかのようだ。
「クラウディア様。あのシモンという神官、何者でしょう?」
「神官のくせに、宰相と聖女を貶めようとしているようにしか見えませんね」
ユダとハインリヒが声を掛けてくる。
「ええ、本当にシモンは何を考えているのかしら……だけど、分かっていることが一つあるわ」
私は前に進み出た。
「クラウディア様? 何処へいくのですか?」
ユダが引き止めてきた。
「今度は私の番よ。黄金の果実を使って、彼を治療するわ」
「何ですって!? ですが、黄金の果実は……盗まれたのではありませんか?」
「え! そ、その話は本当ですか!?」
事情を知らなかったハインリヒが驚きの目で私を見る。
「ええ、そうよ。でも大丈夫よ。皆、見ていて頂戴」
そして私は大きな声を張り上げた。
「では、今度は私が皆様の治療を行います。この黄金の果実を使って!」
私は手にしていた麻袋から黄金に輝く果実を取り出した。
「な、何だと!」
「そんな……どうして……持っているのよ!」
宰相とカチュアが驚きの声を上げる。もう、今の態度で明白になった。やはり黄金の果実を盗み出したのは宰相たちなのだということが。
すると、ふたりの言葉にシモンが首を傾げた。
「おや? 何故そのように驚くのですか? クラウディア様が最初の勝負で黄金の果実を手に入れたではありませんか?」
「そ、それは……!」
カチュアは動揺の表情を浮べながら私を見る。そんな彼女に私は笑みを浮べ、次に腕が壊死しかけている男性に声を掛けた。
「では、この果実を食べてみて下さい」
「あ、ありがとうございます……」
彼は左手で黄金の果実を受け取った――




