第2章 186 茶番劇と乱入者たち
「それではあなたから、この黄金の果実をあげましょうね」
カチュアは優しい言葉を掛けると、近くに杖をついて立っている中年男性に声を掛けた。
「はい、よろしくお願いいたします。聖女様」
男性はうやうやしく返事をする。カチュアは頷き、いつの間にか切り分けた黄金の果実が乗った皿を男性の前に差し出した。
「さ、どうぞお食べ下さい」
「ありがとうございます……」
男性は黄金の果実を口にした。
すると……
「何だか……足のしびれがとれた気がします」
「そうですか? ではひとりで立つことが出来ますか?」
「……やってみます……」
彼は手にしていた杖を地面に置いた。そして……
「おお! す、すごい……立てる! 杖が無くても立てます!」
男性は喜びの声をあげる。すると、周囲で見届けていた人々が次々に拍手を送る。
「素晴らしい!」
「奇跡の力だ!」
「聖女様!」
「私にも奇跡の力を!」
そんな様子を冷めた目で見るのはユダたちだ。
「全く……とんだ茶番だ」
「俺もそう思います」
「白々しすぎですね」
「演技が下手すぎだ」
四人が頷きあう様子を私は苦笑しながら見ていた。すると私の隣に立つシモンが肩をすくめる。
「全く、見ていられませんね。これではたんなる余興に過ぎない。バカバカしすぎます」
「ええ、私もそう思います」
その後もカチュアは『黄金の果実』の奇跡と称して、次々と救済院の人々に黄金の果実を与えていく。
目が見えないと訴えるものや。耳が生まれつき聞こえないと訴えるもの……。
けれど、彼らはみな一様に果実を口にした途端……嘘のように治っていく。
こんなのは傍から見ればヤラセであることが一目瞭然。
それでもこのような馬鹿げたことをする本来の目的は……
「さぁ、これで二十名全員治療を行いました。次はクラウディア様の……」
その時――
「ま、待ってくれ……! こ、ここで奇跡の力で怪我の治療をしてくれるというのは本当か!!」
突如、救済院に大きな声が響き渡った。見ると、荷馬車に乗った男性がこちらへ向かってきている。
カチュアと宰相は驚愕の表情を浮かべる。
「え!?」
「何!」
「お願いです、聖女様! 我々のこともお助け下さい。我々は貧民街に住む者たちです。あまりの貧しさ故に病気の治療も怪我の治療も受けることが出来ません。本日はここで、奇跡の力を分けていただけると親切な若者から聞いてやってきました!」
「え? 貧民街!?」
その言葉に耳を疑う。
「クラウディア様……もしや、あの者たちは……」
ハインリヒが尋ねてくる。
「ええ、多分『路地裏』の人たちだわ」
長老から少しだけ、話は聞かされていた。ここには病気や怪我をしてもまともに治療も受けられない人々が大勢いると。そこでカチュアとの勝負が終わり次第、早急にもう一度、訪ねようと思っていたのだ。
でも、まさか彼らが直接ここへやってくるとは思いもしていなかった。
「どうか、お願いです! 聖女さま! 我らにもその果実の奇跡を分けて下さい!」
荷馬車から男性は降りてくると、カチュアに向かって懇願してきた。
「む、無理です! 私の奇跡の力を分けて上げるのは先程で終わりです!」
「ああ、そうだ! 何と図々しい男だ! 貧民街に住む者のくせに!」
宰相は最低な発言をする。
「いいではありませんか? こんなにまだ聖女様の果実が残っているのですから。奇跡の力を分けて上げればよいではありませんか?」
声の先には驚いたことに、シモンがカチュアのすぐそばに立っていた。
カチュアの黄金の果実が乗った皿を手にした状態で――




