第2章 184 救済院
馬車には私とシモン、それにトマスが乗っていた。
そして馬車を護衛するようにハインリヒ、ザカリーが馬に乗っている。
馬車の中は奇妙な緊張感に包まれている。
けれど、私の監視役のシモンが乗っているのだから無理もない話だ。しかし、肝心のシモンだけは様子が違っていた。
「クラウディア様、城での暮らしは慣れましたか?」
向かい側に座るシモンがのんびりした様子で尋ねてきた。
「え? ええ……そうですね」
本当は常に緊張感にさらされ、心の休まるときは正直に言えば無きに等しかった。
けれど、相手は宰相の手先の神官。迂闊な発言は出来ない。
「慣れたのなら、それは良いことです。しかし、それにしても……」
シモンは不躾と思われるくらいに、私をジロジロと見る。
「な、なんですか? いくらなんでも失礼ではありませんか? クラウディア様はこの国の王妃になるお方ですよ?」
流石に黙っていられなかったのか、トマスがシモンを睨みつけた。すると笑うシモン。
「いや、これは失礼。我が巫女殿は見事な衣装を身に着けて救済院に向かったと言うのに……クラウディア様のお召し物は……質素なものですので」
今私が着ている服は、前回貧民街に向かったときと同じ服装だった。
「ええ、動きやすい服装が一番ですから。それに救済院にいる人々はみな貧しい人々ばかりなのですよね? そのような場所に良い身なりで行くわけには参りませんから」
「なる程……なかなか立派な心構えですね。ですが、救済院に行ってショックを受けないでくださいね」
「それなら大丈夫です。クラウディア様は少々のことでは動じませんから。何しろ傷病兵たちの治療にあたってくれた方なのですから」
トマスが反論してきた。
「そうなのですか? それは興味深い話ですね。では救済院での活躍が今から楽しみですね」
「ええ、私も今から楽しみです」
恐らく、宰相たちが持っている『黄金の果実』は隠し部屋から盗んだものに違いない。そして彼らは、まだその果実が偽物だということに気づいてはいないはず。
今ならもう分かる。カチュアは聖女などではない。宰相が仕立て上げた偽物に違いない。
本物の聖女が何処にいるのかは分からないが、まずは救済院でカチュアの嘘を暴き出し、人々の病を治してあげなければ。
それが……私の務めなのだから。
「そろそろ、救済院が見えてきますよ。ほら、あれがそうですよ」
シモンの言葉に、私とトマスは窓の外に目を向けた。
すると町中に古びたレンガ造りの大きな建物が佇んでいる。
「あれが救済院です。生まれつき目が見えなかったり、足が不自由な人々が暮らしています」
「あれが……救済院」
私は口の中で小さく呟いた――




