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第1章 29  傷病者の町『クリーク』 6

 リーシャと2人で野戦病院の中へ入ると、中は酷い有様だった。


粗末な木のベッドに寝かされているのはかなり怪我や火傷のぐあいが酷そうな人。

そしてシーツだけ敷かれた床の上に寝かされているのは、まだ然程怪我の状態が悪くなく、自分で身体を起こすことが出来そうな人達が寝かされていた。


その数は…合わせて50名ほどだった。

野戦病院の状態は回帰前に見た光景と殆ど変わらなかったが、何回目にしても慣れるものではない。



 病院の中では怪我人だけでは無く、10人前後の男女が忙しそうに動き回っている。彼等は怪我人たちの治療をしている町人たちだ。




「あ…な、なんて酷い…」


この惨状を初めて目にするリーシャは尚更ショックが大きかっただろう。

真っ青な顔で震えている。


「リーシャ、大丈夫?」


リーシャの肩にそっと手を置いた。


「は、はい…だ、大丈夫…です…」


気丈にリーシャは返事をするものの、とてもではないが大丈夫そうには見えなかった。

するとそこへ荷物を運び終えたスヴェンが私達の元へ駆け寄ってきた。


「姫様っ!」


「スヴェン」


「姫様に言われた馬車の荷物は全てこの中に運び込んだよ」


「ありがとう、スヴェン。それでは早速始めるわ」


「え…始めるって…まさか…」


スヴェンが声を震わせて尋ねてきた。


「ええ、そのまさかよ。今から私も傷病兵たちの怪我の手当をするのよ」


「そんな!姫様が自ら怪我の治療にあたるなんて…!な、なら私も…」


けれどリーシャの顔は真っ青だ。とても怪我人の治療が出来る状態には見えなかった。


「大丈夫よ、リーシャ。貴女は直接怪我人の治療に携わらなくてもいいわ。その代わり、助手として手伝ってくれる?スヴェンが運んでくれた荷物の中身をまずは全て開封してくれる?」


「は、はい…!分かりました!」


「姫さんっ!俺は…姫さんを手伝うぞ!俺は何をすればいい?」


スヴェンが身を乗り出してきた。


「ならスヴェンは荷物の中に大きな桶とたらいが入っているから水を汲んできてくれる?井戸はこの建物を出たすぐ目の前にあるから。汲んできた水はたらいの中に入れて、お水で満たしてね?」


「ああ、分かったよ!よし、それじゃリーシャ。一緒に荷物を開封しに行こう」


「はい!」


私に命じられたリーシャとスヴェンは積み上げられた荷物の開封作業に向った。



「さて…」


1人になった私は腕まくりをするとエプロンからリボンを取り出した。

そして後ろで1本にまとめたとき、背後から声を掛けられた。


「クラウディア様」


「え?」


振り向くとユダが立っていた。

その背後には今回の旅に同行してきた『エデル』の使者達が勢ぞろいしている。


「どうしたの?ユダ」


「…」


ユダは少しの間黙って私を見ていたが、一瞬だけ私から目をそらし…次に顔を上げた。


「クラウディア様。我等も全員お手伝い致します。何をすればよいか指示を下さい」


「え…?」


こんな展開は回帰前には無かった。

何故なら彼等はあのとき、町長に野戦病院に案内された私とリーシャを冷たい目で見送っていただけだったからだ。


それなのに、今目の前にいる彼等は私を手伝う為に集まってきてくれた。

彼等にとって私は敗戦国の惨めな人質妻となる姫、それだけの存在なのに…。


「ユダ…皆さん…ありがとうございます。それでは…お願い出来ますか?」


お辞儀をして、顔を上げた私は驚いた。


何故ならユダを始め、彼等は全員真剣な目で私を見つめていたからだ。


「クラウディア様…我等に指示をお願いします」


ユダは私に初めて頭を下げてきた―。




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