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第2章 181 浅はかな宰相

十時――


私は城門前に立っていた。

左右に立つのはユダ、ハインリヒ。そして背後にはマヌエラ、リーシャ、エバ。さらに私を心配したのだろう。

トマスにザカリーの姿まである。


「ほぅ……クラウディア様。逃げずにいらっしゃたのですな? てっきりこちらに現れないかと思っておりました」


 宰相が意地悪な笑みを浮かべて私を見る。

隣には真っ白なローブ姿のカチュアが立っている。外見だけをみれば、その姿はまさに『聖なる乙女』と呼べるであろう。

そして彼らの背後には多くの騎士と神官達が控えている。


宰相の挑発になど乗る気もない私は返事をした。


「ええ、当然です。何故逃げなければならないのですか?」


「ククク……勝てる見込みの無い勝負だからですよ」


リシュリーは肩を震わせながら含み笑いをする。


「! 何だと……っ!」


ユダが怒りを現すが、私は彼を止めた。


「落ち着いて、ユダ」

「は、はい……申し訳ございません」


ユダが謝罪の言葉を述べる。


「勝てる見込みが無いかどうか……それは勝負をしてみなければまだ分かりませんよね?」


私はリシュリーに言い返した。


「チッ! 何と愚かな発言を……」


「落ち着いて下さいリシュリー様。クラウディア様の言う通り、まだ勝負は始まってはいないのですから」


「おお! 流石は『エデル』の聖女。確かにそなたの言う通りであったな」


それはとてもわざとらしい演技だった。宰相は再び私に尋ねてくる。


「……ところでクラウディア様。無断で領地視察に行かれた陛下が昨夜戻られましたが、今朝はこちらにお見えにはならなかったのですか?」


「はい、そうです。私がお断りいたしました。陛下がいらっしゃると、公平性にかけるかもしれませんので」


「なる程……それは賢明な判断ですな。それではそろそろ参りましょうか? 私の方で馬車を手配致しました」


最初の視線の先には白塗りの立派な馬車が2台用意されていた。


「どうですか? とても美しい馬車ですよね?」


カチュアが満面の笑みを称えて私を見る。

……確かにとても立派な馬車だ。回帰前の私なら喜んだだろう。


けれど――


「申し訳ありませんが、その馬車に乗るのは辞退させていただきます」


「何だと!?」

「え!?」


宰相とカチュアが驚いて目をみはる。他の人々も私の言葉にざわめく。


「な、何が気に食わないというのです? この馬車は我が国でも最上級の馬車ですぞ?」


苛立ち紛れに宰相が私を睨みつける。


「ええ、だからこそです。これから私達が向かう場所は貧しい人々がいる救済院なのですよね? このように立派な馬車で乗り付けてくれば、どう思われるでしょう? 自分たちは困っているのに贅沢な暮らしをしていると思われるのではないでしょうか?」


本当に何と浅はかな人物なのだろう? 想像力が働かないのだろうか?


「な、な、何ですと……?」


宰相は怒りのためか、顔を真っ赤にさせてブルブルと震え始めた。


そのとき――



「ハハハハハッ! 宰相、これは一本取られましたな!」


宰相の背後で高らかな笑い声が響き渡った――


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